2022 Fiscal Year Annual Research Report
Exploring Autistic Behavior through Cognitive Biases: Toward a Rethinking of Explanation in Clinical Settings for Autistic Persons
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22H03911
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
植田 一博 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60262101)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
本田 秀仁 追手門学院大学, 心理学部, 准教授 (60452017)
熊崎 博一 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 教授 (70445336)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 判断・意思決定 / 自閉症 / コミュニケーション / 社会的学習 / 認知バイアス |
Outline of Annual Research Achievements |
対人コミュニケーションでは、話者の意図である参照点を推論し、それにより判断を調整することが定型発達者(以下TD者)では一般的である。それに対して、ある種の認知バイアスである、話者の参照点による調整を自閉症者(以下ASD者)は示しにくいという仮説を、不確実な事柄についてコミュニケーションを行う際に日常的に用いる言語的な確率表現に基づく意思決定課題 (Teigen & Brun, 1999) を用いた心理実験により検証した。 具体的には、ASD者48名、TD者111名が実験に参加した。ASD者は全員、精神科医である研究分担者の熊崎によってDSM-5およびDISCOに基づきASDと診断された。またTD者のうち、AQおよびSRS-2の値に基づき、74名を分析対象者とした。実施した課題は意思決定課題と言語的確率表現に対する数値解釈課題であった。意思決定課題では、仮想的な偏頭痛の治療法が成功する確率に関して医師がある言語的確率表現で伝達した時、その治療法を偏頭痛で悩む友人にどの程度勧めたいと思うかについて5段階(1; 全く勧めたくない~5: 非常に勧めたい)で回答を求めた。言語的確率表現には、言葉のニュアンスでポジティブな方向性をもつ表現(「可能性がある」など)とネガティブな方向性をもつ表現(「確実ではない」など)が存在するため、それぞれ4語を刺激として用いた。 分析の結果、参加者が、1: 方向性に特に強い影響を受ける、2: 方向性と確率の両者に影響を受ける、3: 確率に特に強い影響を受ける、という3つのクラスターに分類できることがわかった。そして、1にはASD者しか含まれない一方で、ASD者では3の特徴が非常に弱いことがわかった。このことから、当初の仮説に反し、ASD者がTD者よりも言語確率表現の方向性に強く影響を受けていることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
繰越期間中に予定していた実験を終了し、結果の一部を学会発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画調書に記載した実験2を実施し、人口推定課題を用いた表現フレームに関する推論を用いて、TD者が示す認知バイアスをASD者は示しにくいという仮説を実験的に検証する。人口推定課題とは「2つの都市A,Bのうち人口が多い方はどちらか」を問う課題である。TD者を対象にした先行研究では、選択肢として提示された2都市のうち、再認 (recognize) できる (Gigerenzer & Goldstein, 2002) 、またはより馴染み深い (familiar) (Honda, Matsuka, & Ueda, 2017) 都市を「人口が多い」と考えるヒューリスティックを用いてTD者は回答することが知られている。興味深いのは、そのような再認や馴染み深さを手がかりとした単純な方法でも、多くの場合に正確な推論が可能なことである。さらに、「2つの都市のうちどちらの方が、人口が多いか」という表現(larger frame)で回答させる場合と、「2つの都市のうちどちらの方が、人口が少ないか」という表現(smaller frame)で回答させる場合とでは、あまり一般的でない後者の表現(smaller frame)で聞かれたときの方が、再認、あるいは馴染み深さというヒューリスティックが利用されにくいことが示されている (McCloy, Beaman, Frosch, & Goddard, 2010)。フレームによってヒューリスティックの利用頻度が変わるというTD者が示す上記の傾向を、ASD者は示しにくいことを実験的に検討する。実験を通して、TD者は表現フレームの影響を受け、一般的でないsmaller frameよりも一般的なlarger frameで聞かれた場合の方が、正答率が高く、反応時間も短いのに対して、ASD者では両者に差がないことを示す。
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