2022 Fiscal Year Annual Research Report
Self-body consciousness transformed by EEG manipulation
Project/Area Number |
22H03913
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
水原 啓暁 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (30392137)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 直行 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (70312668)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | コミュニケーション / 脳波 / シンクロ / 運動主体感 / 自己主体感 / 身体意識 / 遠心性コピー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では自己身体意識のひとつである運動主体感の神経メカニズムの解明を目標とする.運動主体感とは,自分の運動結果を自己が行ったと認識する感覚である.この感覚は,自己の運動指令信号のコピーと,運動結果(例えば,手の動き)の視覚フィードバックの情報統合により生成される.従来の研究では,運動指令信号の精度が運動主体感に重要であるとの観点から,視覚フィードバックを遅延させるなどして運動指令信号を操作することで,運動主体感が変容するかが検証されている. 本研究課題では,運動指令信号の操作に加えて,視覚フィードバックの影響を検証している.運動指令信号の精度と,視覚フィードバックを個別に操作した際の運動主体感の変容を評価した結果,これらの要因が運動主体感に及ぼす影響は同程度であることを示した.このことは,運動指令の運動指令信号のコピーと,視覚情報が統合されたときに運動主体感が生成する仮説と一致している.一方で,運動主体感を生成する情報統合が脳内で,どのように実装されているのかは未解明の問題である. この問題を検証することを目的として,神経振動による情報統合に着目して研究を進めている.脳内では異なる皮質部位で分散して情報表現する.この情報を統合する神経基盤の有力候補が,脳波などで観察可能な神経振動の脳部位間のシンクロである.神経振動は,複数のニューロンのシナプス後電位の揺らぎが,局所集団で同期することにより生成される.神経振動の特定の位相において神経スパイク活動が発生することが知られており,同位相でのシンクロにより神経スパイク活動の発生タイミングが一致することで情報統合する.そこで,自己身体意識のための情報統合が,脳波などの神経の振動的な活動のシンクロにより実現されるのかを,脳波計測を中心とする実験研究により実施する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度は,運動主体感に関連する脳波位相シンクロを特定することを目的とした脳波計測実験の準備を開始した.脳波位相シンクロを特定するための心理物理実験課題として,運動主体感の変容を定量的に評価可能な課題を構築した.この実験課題では,運動指令と視覚フィードバックとの時間ずれに統計的な揺らぎを加えるとともに,視覚フィードバックを一時的に遮蔽することで,運動主体感を操作する課題となっている. まずディスプレイ上に正弦波状の経路モデルとカーソルが表示される.実験参加者は,ディスプレイ上に表示されたカーソルを,タッチパッドを用いて操作する.このとき,タッチパッド上の操作とカーソルの動きとの間に,正規確率分布により決定するランダムな時間遅延が挿入される.このことにより,運動指令信号と視覚フィードバック信号の統合を妨害することで,運動主体感の変容を検証可能としている(時間的操作).これに加えて,タッチパッドにより操作中のカーソルを一時的に遮蔽する操作を加えることができる研究課題となっている(空間的操作). これらの時間的操作と空間的操作を実施時のパフォーマンスとして,正弦波状経路モデルと実際のカーソル軌道とのずれに基づいて,運動成績を定量的に評価するとともに,運動主体感に関する主観評価に基づいて,これらの要因が運動主体感に与える影響を検証可能としている.また,情報理論に用いられる相互情報量を用いることにより,これらの要因が運動主体感に与える影響を定量的に評価可能としている. 令和4年度においては,まず,時間的操作に焦点をあてて,関連する脳波位相シンクロを特定するための実験課題の準備を完了している.
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度において準備した実験課題を用いて,脳波計測を実施することにより,運動主体感に関連する脳波位相シンクロを特定する.また,運動主体感に関連する脳波位相シンクロが特定されたのちに,この脳波位相シンクロを経頭蓋電気刺激により操作することで,運動主体感が変容するかを検証する計画である. 次年度以降においては,まず,運動主体感に関連する脳波位相シンクロを特定するための脳波計測実験を実施する.この脳波実験では,カーソル操作課題において,タッチパッド上の操作と実際のカーソルの動作との間に,正規確率分布の3種類の分散に従った遅延時間を挿入する.これまでに同様の心理実験課題を用いたときの運動主体感の変容を検証したところ,正規確率分布の分散を変化させて遅延時間を挿入することで運動主体感が変容することが明らかになっている.そこで,この遅延時間変化にともなって変化する脳波位相シンクロを特定する計画である. さらに,脳波位相シンクロを操作するための経頭蓋電気刺激の詳細な仕様の検討を始める.一般的な経頭蓋電気刺激は空間分解能が極めて低く,頭皮上からの電気刺激により広範な脳部位を刺激することとなる.そのため,本研究で目的とする脳部位間の位相シンクロを操作することは困難である.そこで,この問題を解決する有力候補として,HD(high definition)経頭蓋交流電気刺激の使用可能性について,シミュレーション実験にもとづいて検討する研究計画である.
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