2023 Fiscal Year Annual Research Report
偶然性概念の哲学史的・概念史的研究:現代の諸課題の再文脈化の試みへ向けて
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23H00559
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
乘立 雄輝 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (50289328)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中 真生 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (00401159)
一ノ瀬 正樹 武蔵野大学, 人間科学部, 教授 (20232407)
古荘 真敬 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (20346571)
石原 孝二 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (30291991)
渡名喜 庸哲 立教大学, 文学部, 教授 (40633540)
鈴木 泉 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50235933)
納富 信留 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (50294848)
相松 慎也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (50908829)
山田 有希子 宇都宮大学, 共同教育学部, 准教授 (90344910)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 偶然(性) / 確率 / 西洋哲学史 / 世界哲学史 / エンハンスメント / パンデミック |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「西洋哲学における偶然性についての諸解釈が現代の諸問題にもたらす新しい視座とは何か、さらに新しい偶然性理解が可能か」という問いを核として展開されているが、まず、古代から現代にいたる西洋哲学の歴史の中で考察が積み重ねられてきた「偶然・偶然性」(chance, contingency)概念について、各時代及び各哲学者による概念規定を吟味しつつ、各時代に固有の偶然性概念の理解を明らかにすると同時に、各時代間での連続性と断絶、それが生じた背景を考察することを基礎研究とする。 その基礎として初年度の2023年度には、各人が「偶然性」をめぐる概念史的考察および現代における偶然性理解に取り組んだ。その一つの成果として、10月28日に開催された哲学会第六十二回研究発表大会において分担研究者である渡名喜庸哲氏(立教大学)と、中澤栄輔氏(東京大学)を呼び、パンデミックをめぐる哲学的考察をテーマにしたワークショップ「パンデミックと哲学――生と医療、そして死――」を開催し、偶然的に降りかかってくる疫病などがわれわれの倫理観、倫理的判断におよぼす影響について議論を重ねた。渡名喜氏は「パンデミックはいかなる「生」を問題にするか:現代フランス哲学の立場から」というタイトルで発表を行い、パンデミックという生命と通常の生活を脅かす不慮かつ未曾有の事態に直面する中で、現代フランスの哲学者たちが「生」をどのように捉え直したかということに目を向け、現実的な局面での偶然性理解への考察を深めた。中澤氏は「COVID-19 パンデミックを契機とする医学的無益性概念の再考」というタイトルで発表を行い、COVID-19 治療における医学的無益性概念を再考することで、救急医療における医療資源配分と治療に関するの意思決定という医療倫理的に未整備と考えられる問題についての考察を展開させ、本科研費参加者たちと議論を交わした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度にあたる2023年度は、各人が「偶然性」概念を各々の立場、視点から理解することに努める基礎的な研究活動を行った。主に各分担研究者が自分の持ち場で「偶然性」が持つ意味についての研究を重ね、資料を集めることに集中した一年であったといえる。その一環として、研究代表者である乘立雄輝は東京大学で担当している講義「死生をめぐる偶然と確率の問題」において、これまでと同様に参加している学生たちから死と生に対するわれわれの理解に偶然や確率といった哲学的・数学的概念がどのように影響を与えるのかということについて様々な意見を募り、講義の中で一緒に議論することで、比較的若い年代、また、哲学以外を専門分野にする学生たちや既に社会人である参加者たちから新しい観点や問題意識を摂取することに努めた。 また研究実績の概要でも述べたが、10月28日に開催された哲学会第六十二回研究発表大会において分担研究者である渡名喜庸哲氏(立教大学)と、中澤栄輔氏(東京大学)を呼び、パンデミックをめぐる哲学的考察をテーマにしたワークショップ「パンデミックと哲学――生と医療、そして死――」を乘立の司会で開催することで、他の研究分担者たちも討議に加わり、お互いに意見を交わし合ったことが極めて有益であった。 以上のような理由で、本研究は概ね順調に進展していると考える。ただ、2023年度は基礎的な研究が主であったため、分担研究者たちとの対面での交流が少なかったのも事実である。今後は、当該年度で得た材料を持ち寄り、様々な意見を交わす機会を積極的に持ちたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記にもあるように、2023年度は各個人による基礎的な研究が中心であり、相互の交流が少なかったため、2024年度以降は、そのような各分担研究者間での対面での交流を深めることで、各人の研究成果を有機的に組み合わせ、それを外に発信する努力に取り組みたい。現在、検討しているのは、研究分担者を集めた2023年秋頃に研究会を開き、そこに大学院に在籍している若い研究者たちを巻き込んでいく形で、偶然性についての根底的な理解を深め、また、これまで見落とされてきた新しい問題を発掘することによって研究全体の議論をさらに活発にさせていきたいと考えている。 また2025年度には、内外の研究者を呼び、少し大きめの研究シンポジウムを一般に公開する形でこれまでの成果を明らかにし、広く意見を集めていくことでさらなる視野の拡大に努めていきながら、研究を展開していきたいと考えている。 最終年度である2026年度には、研究の集大成として公開シンポジウムと研究分担者および外部から呼ぶ執筆者たちによる論文集を発刊したい。それを通じて、偶然性に関するどのような新しい理解や視点が得られたかを社会に還元できるよう努め、今後のさらなる研究発展のための礎とすることを目指したい。
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