2023 Fiscal Year Annual Research Report
A Complex Examination of Temple Concepts based on Reproduced Images of Buddhist Wall Paintings built in the 11th-13th centuries
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23H00592
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
正垣 雅子 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (90749441)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊谷 竜太 高野山大学, 文学部, 准教授(移行) (50526671)
末森 薫 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 准教授 (90572511)
ZHAI JIANQUN 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 講師 (90984823)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 寺院壁画 / 表現技法 / 模写 / 寺院空間 / ラダック / バガン / 写真資料 |
Outline of Annual Research Achievements |
インドのラダック地方とミャンマーのバガン遺跡の仏教壁画を比較することを着想したきっかけとなった写真家・井上隆雄が撮影した仏教寺院壁画写真資料の詳細な調査を行い、情報を整理した。本成果は、国立民族学博物館が進める「学術知デジタルライブラリの構築(X-DiPLAS)」の《井上隆雄「ラダック・ビルマ仏教壁画」写真コレクション》として、2024年3月に一般公開した。 正垣は、ラダック地方ヌブラ地区のエンサゴンパで2021年に新発見された仏塔内壁画(推定8-9世紀)の菩薩像を模写制作した。制作に際しては、2022年夏に行った現地調査で取得した三次元データおよび詳細画像を活用した。この研究成果は、正垣、末森が文化財保存修復学会第45回大会(2023年6月,国立民族学博物館)において発表した。 壁画の現地調査としては、正垣、末森、Zhaiが、中国甘粛省の投稿莫高窟および楡林窟で壁画に近接して表現技法や、照明の影響等を検証した。そして、「伝統と創新 敦煌石窟芸術研究学術研究討論会」(2023年9月,敦煌研究院)で研究発表を行った。敦煌研究院美術所の画家たちと模写の考え方、方法について意見交換し、今後の模写制作における課題を整理した。 菊谷は、空間設計に関わる「建築儀礼書」の解読に着手した。注目したのは、インド・ネパール・チベットにおいて「マンダローパーイカ」と呼ばれる儀礼集成文献である。文献学的研究に基づいた寺院空間設計については、第47回密教図像学会(2023年12月、種智院大学)で発表した。その成果の一部は学術論文にまとめ、出版する予定である。 また、研究会「ラダックとバガンの仏教壁画 仏教寺院空間構想における壁画表現の役割」 (2023年11月,高野山大学)を開催し、他領域の研究者を交えた発表と意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
代表者が所属する大学の移転事業によって、研究施設使用が長期間制限されたことが模写制作の進捗に遅れが生じることになった。また、ミャンマーのバガン遺跡の現地調査を希望していたが、政変後の混乱のためミャンマーへの渡航が困難な状況にあり、実施が叶わなかった。その代替として、協力者の寺井淳一が、バガン遺跡の寺院壁画断片の日本での所在を確認し、写真家・井上隆雄が撮影したバガンの仏教寺院壁画写真の悉皆的な調査と情報整理を進めた。しかし、模写対象の壁画を選定するには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、ラダックに現地調査に赴き、現地専門家の協力を得て調査対象寺院を選定し、寺院空間と壁画表現について記録、検証を行う。芸術実践である模写制作の壁画を選定し、制作を開始する。バガンの仏教寺院については、引き続き現地調査が難しいと予想されるので、現地協力者に依頼し、模写対象の寺院壁画を採寸し、井上隆雄写真資料を参考にしながら制作を進める。 また、寺院空間設計の元となった建築儀礼文献について、高野山大学に遺されているラダックの調査記録とオリッサ・バングラディッシュの調査記録の解析を進める。ラダックの調査記録は、井上隆雄写真資料とほぼ同時代であるので相互補完が期待できる。オリッサ・バングラディッシュの調査記録は現在ほど遺跡の発掘・整備が進んでいなかった時代の、貴重な資料である。これらの情報と文献資料を併せることにより、仏教文化圏の広域的な動態と寺院空間の実際についてより精密に解析を進めていく。
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