2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
23H00618
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小栗栖 等 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (60283941)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
|
Keywords | 中世フランス語 / 中世フランス文学 / 文献学 / テキスト校訂 / 歴史言語学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、『ロランの歌』のケンブリッジ写本(十五世紀前半成立、5695詩行)の校訂本(Edition electronique du <Roland> de Cambridge, Geste Francor, Nagoya, 2023, 762ページ)を準備十月に書籍本と電子本(Kindle本)として刊行した。冒頭部には序論と網羅的な文献一覧を付し、各詩行には、文献学、歴史言語学などの観点から、詳細な注釈を施し、巻末には全語彙索引、全固有名詞索引などを備えた。すでに発表した関連論文二本への参照も加え(名古屋リポジトリに公開済み)、読者の便宜を図った。当然のことであるが、テキスト本文は古フランス語、注釈や序論などは全て現代のフランス語で書かれている。また、組版などは全て自力で行った。校正には同僚のクリストフ・ガラベ氏の協力を得た。 2023年度前半は、上記校訂本の準備と並行しつつ、同年度の後半は、電子ツールの開発維持などと並行しつつ、『ロランの歌』のヴェネツィア7写本(十三世紀末成立、フランコ=イタリアン方言、約8333詩行)とシャトールー写本(十三世紀末成立、フランコ=イタリアン方言、約8204詩行)のテクスト校訂作業も進めた。その必要に応じ、両写本の網羅的な詩行対照リストを作成した。また、既存の各刊行本の詩行の照合を可能にする手立てがほぼないため(各校訂本は詩行番号がずれるのに、校訂本どうしの対照表がない)、それらの試行番号も対照リストに組み込んだ。現在は未公開であるが、電子ツール化して公開する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、2023年度は、『ロランの歌』ケンブリッジ写本(十五世紀前半成立、5695詩行)の校訂本を刊行することになっていたが、予定通り刊行の運びとなった(Edition electronique du <Roland> de Cambridge, Geste Francor, Nagoya, 2023, 762ページ;書籍版+電子版[Kindle本])。これは全編フランス語で書かれており。序文、参考文献リスト、校訂テキスト(批評版)、校訂テキスト(ディプロマティック版)、略号一覧、小有名索引、全語彙索引、各詩節と各フォリオ(紙葉)の校訂本中での所在が一目でわかるリストが付されている。 2023年度前半は、上記校訂本の準備と並行しつつ、同年度後半は、電子ツールの開発維持などと並行しつつ、『ロランの歌』ヴェネツィア7写本(十三世紀末成立、フランコ=イタリアン方言、約8333詩行)とシャトールー写本(十三世紀末成立、フランコ=イタリアン方言、約8204詩行)のテクスト校訂作業も進めた。テクストは概ね確定し、各詩行の注釈執筆が2024年度の主な仕事の一つとなる。2023年度には、両写本の網羅的な詩行対照リストを作成した。また、既存の各刊行本の詩行の照合を可能にする手立てがほぼないため、それらの試行番号も対照リストに組み込んだ。現在は未公開であるが、2024年度には電子ツール化して公開する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
V7写とのCルー写本校訂作業を継続する。校訂作業は、写本を読んで、それをコンピュータの文字で表記し、できあがったテクストを何度も写本と見比べて手直しするという地道なものである。ただし、現代の活字書籍を電子化する作業とは、質的にまったく異なる。写字生の文字は時に乱れ、時ににじみ、時に剥落している。たとえ文字が判別できたとしても、必ずしも、それが理解可能な文を構成してくれるとは限らない。写字生が転写ミスを犯さないとも限らない一方で、写字生の提案するテクストの正誤を判定するのも、時にきわめて難しい作業となる。たった一詩行のために、詳細な語彙研究、文法研究、さらには文化研究が必要になることは、決して稀なことではない。他方で、同系列に属する他の写本、時には他の系列に属する写本、さらには他の作品をも詳細に検討して、はじめて理解される詩行も存在する。したがって、写本の一詩行から、校訂本の一詩行を写し取る過程では、多数の文献を渉猟しなければならず、そこに膨大な時間が注ぎ込まれる。校訂作業とは、いにしえの写字生が残した不確かな証拠から、最も妥当なテクストを割り出すという、再構築の作業であり、単なる転写作業ではありえないのである。さらに、校訂作業に際しては、常に、過去の校訂テクストとの比較検討も必要である。それにより、自分自身の校訂ミス(逆に、過去の研究者のミス)を見つけたり、解釈の多様性を確認することができる。過去の校訂本と我々の校訂テクスト異同は、網羅的にデータベース化されることになるが、こうした作業は、校訂作業と同時進行になる。したがって、作業量は膨大なものとなるが、V7写本は8,333行、Cルー写本は8204行に及ぶ、長大なテクストを擁するので、その作業が一段落するのは、2024年度末と見込まれる。なお、上記の計画と並行して、様々な電子ツールを開発することになる。
|