2023 Fiscal Year Annual Research Report
日中文明遺物の産地探索をめざす中近世沈船・舶載遺物の考古学と自然科学の融合研究
Project/Area Number |
23H00719
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
桃崎 祐輔 福岡大学, 人文学部, 教授 (60323218)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上野 淳也 別府大学, 文学部, 教授 (10550494)
栗崎 敏 福岡大学, 理学部, 准教授 (20268973)
石黒 ひさ子 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (30445861)
大隣 昭作 福岡大学, 工学部, 助手 (40341391)
古澤 義久 福岡大学, 人文学部, 准教授 (40880711)
脇田 久伸 佐賀大学, シンクロトロン光応用研究センター, 特命研究員 (50078581)
小嶋 篤 九州歴史資料館, 埋蔵文化財調査室, 研究員(移行) (60564317)
主税 英徳 琉球大学, 国際地域創造学部, 講師 (60910510)
岡寺 良 立命館大学, 文学部, 准教授 (70543693)
沼子 千弥 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (80284280)
市川 慎太郎 福岡大学, 理学部, 助教 (90593195)
大重 優花 福岡大学, 人文学部, 助手 (10986558)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 菊池市菊之池遺跡 / 棒状鉄素材 / 神奈川県城際遺跡 / 青森県浪岡城跡 / 玉名市繁根木八幡宮 / 征西府懐良親王 / 日宋貿易 / 日明貿易 |
Outline of Annual Research Achievements |
桃﨑祐輔・小嶋篤・大重優花・栗崎敏・市川慎太郎2023.9.24.「九州・沖縄の中世流通鉄素材と中国沈船鉄の比較研究」『七隈史学会第25回大会 考古部会』では、2023科研の展望を示す一方、カンボジア・アンコールワットをはじめとする東南アジア遺跡への中国産鉄素材流入の可能性を指摘した。特筆されるのは、熊本県菊池市菊之池遺跡の室町時代居館の地鎮遺構に埋納された棒状鉄素材一括が出土し、桃﨑・石黒・小嶋・大重・栗崎・市川で菊池市にサンプリングに赴き、その分析成果は、市川慎太郎, 松木麻里花, 栗崎敏2023「第V章 菊之池A遺跡SK13土坑から出土した棒状鉄製品の剥離片の自然科学分析」『菊之池A遺跡-認定こども園菊池幼稚園建設事業に伴う埋蔵文化財発掘調査-,』で報告した。 菊池地域は在地砂鉄を使用したたたら製鉄が行われる一方、延寿派刀鍛冶の作刀が知られる。菊之池A遺跡出土の鉄素材が国産鉄か輸入鉄か今後明らかにしたい。 研究代表者の桃崎は、『発掘された鉄から探る日本の古代・中世』と題して朝日カルチャー福岡教室で連続講座を行い、「弥生時代製鉄開始説への疑問と邪馬台国・狗奴国所在地論」、「百済から輸入された鉄素材の実態と七支刀の時代」、「古墳時代製鉄の実態―福岡市油山山麓の製鉄遺跡」、「九州にも鉄鉱石製鉄があった!―宮原金山遺跡の謎」、「中世大鎧の素材は中華鍋か」、「中世の棒状鉄製品は中国宋からの輸入鉄素材か」のタイトルで本科研にかかる研究成果の社会還元につとめた。 岡寺良2023「近世天草・島原の遠見番所と烽火台」『立命館文學』第686号では、中近世航路推定の根拠となる遠見番所・烽火台の分布と現況を検討した。 小嶋篤2023「熊本県菊池市・菊之池A遺跡出土棒状鉄製品の観察」『第19回古代武器研究会』では、菊之池遺跡・神奈川県城際遺跡・青森県浪岡城跡の棒状鉄素材について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度中は、各自が2020科研の成果を踏まえ、これを発展させる調査研究に従事した。熊本県菊池市菊之池遺跡では、南北朝・室町時代棒状鉄素材が一括出土し、本資料の分析報告を行った。菊池地域は南北朝期以降、延寿派刀鍛冶の作刀で知られる地域である。 また、中世菊池氏の勢力圏にあたる熊本県玉名市繁根木八幡宮では、応永二十一年(1414)の文書に中世の鉄素材流通の記事がある。更に、明の朱元璋は懐良親王を日本国王良懐として冊封し、14世紀後半には初期日明貿易が開始されたが、この時に明から日本への鉄素材や鉄鍋の輸出がなかったかが問題となる。 分担者の上野は、種子島、愛媛県南部(等妙寺跡・河後森城跡)出土鉄製品の蛍光X線分析を実施した。種子島では、砂鉄・製鉄実験鉄塊、鉄砲の化学組成計測と実測図作成を実施した。精錬の過程で、どのような元素が失われ、また増えるか、製品化の段階でどのような元素が加わるか増減するかが、把握出来つつある。 分担者の小嶋は、菊之池A遺跡に加え、神奈川県伊勢原市城際遺跡と青森県浪岡町浪岡城跡の資料調査(実測・重量計測)を行った。いずれの遺跡も棒状鉄製品が束になって出土したが、現状は保存処理の際に分離されている。資料観察の結果、外面に梱包材の遺存(菊之池A遺跡と類似)を確認した。加えて、想定外の、両遺跡で共通した製作工程(成形方法)の痕跡を見出した。現在、馬鍬に加え、舟釘(鉄釘)の情報を収集中である。 分担者の石黒は、中国での沈船調査の最新情報を収集する一方、中国の水中考古学の専門家と意見交換を行い、沈没船積載の鉄素材・鉄鍋の内容が時期とともに変化する背景に、輸出規制政策への対策として、馬鍬などの農具に偽装した鉄素材輸出があった可能性を追究している。また現在、中国での合同研究会の開催可能性を探っている。 各分担者とも各自の役割を自覚し作業を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度科研研究について研究成果公開を行ったところ、中国の研究者からも問い合わせがあった。またこの報告書の内容を知ったアグネ技術センター『金属』編集部より、本科研の内容を紹介する内容に沿って、月刊雑誌『金属』に1年間12本の「連載 アジアを変えた鉄-中世社会の成立と中国産鉄の流通」を打診された。2024年5月までに桃﨑祐輔2024.4.1.「中世の棒状鉄製品は中国宋からの輸入鉄素材か」『金属』Vol.94(2024)№4 pp.67(353)-78(364)、石黒ひさ子2024.5.1.「中国宋代の製鉄革命と交易の実態―中国南海沈船の相次ぐ発見と世界遺産下草埔冶鉄遺跡―」『金属』Vol.94(2024)№5 pp.66(458)-74(466)が既に刊行されている。現状ではこれまでの成果と今後の展望について、定評ある金属業界紙に連載の形で中間成果を発表できることは大きな意義があると考える。 また中国との合同研究の実現と国際シンポジウムの開催に向けて、今後中国でのプレゼンテーションの機会を設けて学術交流を密にしたい。コロナ禍の鎮静と日中関係の改善を踏まえ、分担者の石黒が中心となって山東大学との学術交流の可能性を模索中である。 2020科研で発見した佐賀県唐津市波戸岬沈船については、唐津市・佐賀県名護屋城博物館と情報共有を図る一方、分担者の大隣が中心となって地上ドローン・海中ドローン探査を準備中である。過去の採集遺物は脱塩処理が完了しており、協力者の景山千裕の天目茶碗・内田昌太朗の肩衝茶入の検討によって、14世紀後半の年代が推定され、明太祖朱元璋・西征府懐良親王間の初期日明貿易にかかる遺物群の可能性が高いと推定される。 最終的に日本向け航海中に沈没した宋元明代の沈船を探査し、鉄遺物を回収して中世日本での中国産鉄輸入・流通を実証することを目指す。
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