2023 Fiscal Year Annual Research Report
てんかん脳波の非線形時系列解析によるモデル化と発作予測
Project/Area Number |
23H01088
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
行木 孝夫 北海道大学, 理学研究院, 教授 (40271712)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
津田 一郎 中部大学, 創発学術院, 教授 (10207384)
池田 昭夫 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (90212761)
松橋 眞生 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (40456885)
中村 文彦 北見工業大学, 工学部, 准教授 (40825147)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 非線形時系列解析 / てんかん / 力学系 / エントロピー |
Outline of Annual Research Achievements |
研究分担者の所属する京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座から提供された広域周波数帯域記録脳波に関する数理的解析を進めた.この脳波は頭蓋内留置電極によって記録され,電極数は患者によって異なるものの50から100電極であり,サンプリング周波数は2000Hz,時定数は10秒と極めて高精度な脳波である.この脳波に依拠した数理モデルを構築,発作を特徴づける研究が課題である.研究分担者とは月に1回程度のオンライン打ち合わせをもち研究の進度や知見を密に共有している.令和5年度は特にパーミュテーションエントロピーによる脳波波形の分類に関する解析を進めた.パーミュテーションエントロピーによって,てんかん患者の頭蓋内留置電極による記録脳波が発作前と発作時において分類できることを発見した.脳波を差分化した差分波形に関するパーミュテーションエントロピーが発作前30分では定数値で推移する一方,発作時には患者によって減少あるいは増大する現象が見られている.また,パーミュテーションエントロピーの電極ごとの相関係数を見ると,相関の高い電極によるクラスターはてんかん焦点を構成する電極と焦点から高周波振動を伝播させる電極を含むことが示唆され,パーミュテーションエントロピーによる解析の有効性と発作時の電極間ネットワークが抽出できる.以上の解析をもとに,発作時DC shift(直流成分の増大)を組み込んだ数理モデルの構築を目指している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
広域周波数帯域記録ECoG脳波の解析,特に差分波形に対するパーミュテーションエントロピー解析から,発作前と発作時の脳波の分類が可能になり,パーミュテーションエントロピーの相関からてんかん焦点と高周波振動の伝播の中心になる電極をクラスターとして抽出できる.パーミュテーションエントロピーの計算コストは低く,これによっててんかん原生領域を効率的に抽出することができる.この結果は計画時には想定していなかったものであり,計画以上に進展していることを示す結果である.発作時脳波の高周波振動を示す時間領域でサークルマップ型の区間力学系が存在することは研究代表者・分担者が発表済みであるが,カオス時系列解析によるこのような力学系の構成は発作の一部でしか観測されないことが不十分な点であった.時系列ネットワークを用いたパーミュテーションエントロピーの評価手法により,このような力学系が存在すればパーミュテーションエントロピーは減少することがわかり,同時に,力学系が存在しない時間領域においても単純マルコフ型の確率モデルを構築することができる.我々の発見した本手法は時系列解析一般に適用できるものであるが,その適用範囲を大きく広げるものであることが,脳波への適用によって示せている.同時に,発作時にパーミュテーションエントロピーが増大する症例を発見しており,これは既存の報告にはない現象である.この増大理由を明らかにすることは今後の新しい問題である.以上の理由から,本課題は計画通りに進展しているものである.
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Strategy for Future Research Activity |
研究分担者の津田が札幌市立大に異動し,札幌グループ(行木,津田),京大グループ(池田,松橋),北見グループ(中村)の3グループによる推進体制となる.数理グループが札幌・北見に集中することで効率的な研究推進が期待できる.初年度と同様に月に1回程度のオンライン会議によって議論を進め,数理と臨床(生理)の両面から研究を進める.札幌グループでは時系列ネットワークの手法を適用したパーミュテーションエントロピーによる単一電極のダイナミクス解析および相関による電極間クラスター解析を継続する.電極間相互作用ネットワークの構成にあたっては,トランスファーエントロピーと同時に統合情報量の適用も検討する.臨床の京大グループは発作時脳波におけるDC shift(直流成分の増大)が高周波振動に先んじて生じる現象を細胞外カリウム濃度の変動によるものと実験的に説明する生理学的な結果を提示し,札幌グループはこれに対応する数理モデルを模索する.北見グループは,発作時に発生する高周波振動から構成されるサークルマップ型の1次元力学系の理論的な解析を進める.回転数のパラメータ依存性を中心に解析し,これが発作時高周波振動の時間周波数解析に現れる特異な周波数に相当することを示す.同時に,脳波挙動と合わせた単一電極のサークルマップ型力学系のパラメータ決定と同時に,結合型力学系による複数のてんかん焦点のダイナミクスの構成を進める.
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Research Products
(6 results)