2023 Fiscal Year Annual Research Report
Real-time structural dynamics analysis in protein crystal under controlled environmental conditions (temperature and pH).
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23H01780
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
馬場 清喜 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 構造生物学推進室, 主幹研究員 (00437344)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村川 武志 大阪医科薬科大学, 医学部, 助教 (90445990)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | X線結晶構造解析 / タンパク質の機能 / 結晶化温度 / 構造ダイナミクス / 温度環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質は、環境(pH、温度)に応答して活性が変化する。タンパク質の活性温度は結晶化温度よりも高い場合がほとんどであるが、従来のX線結晶構造解析においては、20℃以下の制限された条件でのみ、結晶の質を保持したまま時分割実験などを実現していた。活性温度よりも低い温度で得られた構造情報のみで、果たしてタンパク質の機能を解明する情報は十分なのだろうか? 本研究では、10~45℃程度の温度環境において、リアルタイムで結晶内のpHを変更しながら回折実験を行い、変化する構造情報を解析し、温度が影響する活性状態の構造と反応機構の相関を明らかにすることを目的とする。 我々が開発しているHumid-Air and Glue-coating Method (HAG法) は、水溶性高分子で結晶をコーティングし、温度、湿度を制御して非凍結での回折実験が可能である。本研究課題ではHAG法を発展させて、測定環境(温度、pH)のリアルタイム変化を可能とし、非凍結状態のタンパク質結晶の平衡の変化を構造情報として明らかにし、構造のダイナミクス、反応速度の変化を解析し、そのメカニズムを明らかにする。今年度は、pH調整調湿ガス装置の仕様を決定し、部品の調達と組み立て、動作確認を行った。さらに、添加する酸/アルカリ溶液の切り替えを実現するためのソフトウェアの制御ロジックを構築した。評価試料の土壌細菌由来銅含有アミン酸化酵素(AGAO)結晶にpH指示薬を浸漬して結晶内のpHを顕微分光測定で測定できた。さらに、AGAO結晶、ソーマチン結晶を20℃から昇温し、解析可能な温度範囲の検証も行った。また、この実験で使用するオンザフライ処理の為の解析環境を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時に評価実験を行ったpH調整調湿ガス装置の改造を実施した。試料へ吹き付ける最終的な温度へ調整する熱交換器は、高温対応(10~70℃)調湿装置と同じ仕様とした。酸/アルカリ溶液の2種類を気化した調湿ガスを製造、流量制御する部分については、温度変化による水の添加量に対応して精密な制御を行うために、10~20℃と20~50℃の2つに装置を分けた。必要な部材調達には9か月以上納期が必要であったが、計画通り装置の組み立て動作確認まで完了した。pH調整調湿ガス装置の気体の混合制御は、酸/アルカリ溶液を酸溶液:アルカリ溶液=0:100から 100:0へ変更する際に添加総量を保ちながら混合比をリアルタイムで制御するロジックを構築した。来年度は、組み立てた装置での動作確認と従来の温度湿度調整機構へ機能を統合する。 回折実験は、結晶をPVAでコーティングした状態で調湿しながら温度やpHの環境を変化させることで実験を行う。さらに、回折実験の間にオンラインでの顕微分光測定も行い、反応の進行状態も確認する。AGAO結晶にpH指示薬を浸漬し、結晶内のpH変化を顕微分光装置で測定する予備実験を行った。その結果、AGAO結晶はpH指示薬の溶液に浸漬して結晶を染色可能であった。今後、ソーマチン結晶も含めてpH指示薬の至適濃度を検討し、pHと結晶の厚みによる吸光度の変化を予備実験として取得する。また、AGAO結晶、ソーマチン結晶を20℃から昇温し、解析可能な温度範囲の検証も行った。これらの結果を基に、温度・pH変化と吸光度測定を組み合わせた回折実験の予備測定を行う。 大型放射光施設 (SPring-8)の自動測定で開発された自動処理システムをこの実験用に構築し、オンザフライ処理が可能な解析環境を構築し、実験後すぐに構造変化の確認を行い、解析時間を短縮する準備を完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
10~45℃程度の温度環境において、リアルタイムで結晶内のpHを変更しながら回折実験を行い、変化する構造情報を解析し、温度が影響する活性状態の構造と反応機構の相関を明らかにすることを目的として、研究を進める。 2024年度:前年度に部品を購入して改造したpH調整調湿ガス装置の酸/アルカリ溶液のリアルタイム切替機構の制御を構築する。すでに、酸溶液:アルカリ溶液=0:100から 100:0への流量制御のロジックは構築しており、動作確認と修正を行い、温度湿度調整機構へ機能を統合する。AGAO結晶は、pH指示薬の溶液に浸漬して結晶を染色可能であった。pH指示薬の至適濃度を検討し、pHと結晶の厚みによる吸光度の変化を予備実験として取得する。ソーマチン結晶についてもpH指示薬による染色と吸光度の測定を行い、pH指示薬の至適濃度の検討を行う。これらの結晶を用い、温度・pH変化と吸光度測定を組み合わせた回折実験の予備測定を行う。 2025年度:前年度に行った予備実験を基に、AGAO結晶、ソーマチン結晶で温度・pH変化と吸光度測定を組み合わせた回折実験として、10, 20, 30, 40, 50℃に結晶温度を調整し、酸溶液>アルカリ溶液 or アルカリ溶液>酸溶液へ切り替え、設定時間頃に顕微分光による吸収測定と回折実験を行い、環境変化に伴う結晶内の構造変化と反応速度について解析を行う。これらの結果から論文の準備を進める。 2026年度:不足したデータの追加実験を行うとともに、研究成果を論文として投稿し、学会での発表も行う。 また、開発したpH調整調湿ガス装置はオリジナルの装置である。これまでに実施例のない実験手法となるため、装置の安定性の向上、装置の操作用GUIの最適は通年で実施し、高性能化に努める。
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[Presentation] HAG法を用いた調温調湿環境でのタンパク質結晶構造解析手法の開発2024
Author(s)
馬場清喜, 入江崇起, 小林俊幸, 坂井直樹, 河野能顕, 奥村英夫, 河村高志, 水野伸宏, 長谷川和也, 山本雅貴, 熊坂崇
Organizer
第37回日本放射光学会年会・ 放射光科学合同シンポジウム