2023 Fiscal Year Annual Research Report
Realization of thermal exciton polariton states and pioneering principles for controlling thermal radiation
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23H01791
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西原 大志 京都大学, エネルギー理工学研究所, 講師 (80768672)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ナノ物質科学 / 熱放射 / 励起子 / ポラリトン / 光物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、熱エネルギーの高度な利用に向けて、光子と電子系のハイブリッド量子である励起子ポラリトン状態を高温(1,000 K近く)で実現し、その熱放射特性の解明を目指す。これが実現すれば、熱放射波長や指向性の制御、そして高強度化など、機能的な熱光エネルギー変換の重要な一歩になると期待される。研究の舞台として、単一の場合、2,000 Kの高温でも安定な励起子(電子と正孔が束縛した量子状態)を有するカーボンナノチューブ(CNT)を用い、その複合材料と共振器を組み合わせることで、熱励起子ポラリトンの実現を目指す。そのために、本年度は、まず、CNTを基盤とした高耐熱複合ナノ物質の開発環境の整備を行った。CNTは構造によって励起子共鳴エネルギーと耐熱性が変化するため、波長が決まった熱放射を示す高耐熱複合ナノ物質として、単一種のCNTを集積化することが望ましい。そこで、先行研究を参考に、単一種CNTの分離、並びに分散剤の除去技術の整備を行った。この手法を用いて作製したCNT薄膜に関して、透過率の温度変化、ならびに二光子励起発光分光を用いた励起子の束縛エネルギーの評価により、薄膜中の励起子は約1000 Kの高温でも十分に安定であることがわかった。単一条件と比較して、薄膜中ではCNTのバンドル化により励起子の束縛エネルギーは低下するが、それでも目的の高温でも、励起子が十分に安定であることを確認した。また、CNTと複合化する材料の候補の一つで、高耐熱絶縁体である窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)に関しても、分散液の検討進めており、遠心分離処理により、直径の小さなBNNTが得られており、今後はある程度直径が揃ったBNNTとCNTのナノ複合材料を作製する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、CNTとBNNTのナノ複合材料の作製と基礎物性評価を計画していた。複合材料のプロトタイプの作製や、その光学特性の温度変化など、研究計画を一通り遂行する中で、膜中に存在する大量の分散剤が高温実験では問題となることがわかった。この分散剤は、CNTの励起子共鳴と光吸収波長が大きく異なるため、室温ではあまり問題とならないが、600 K以上の高温では炭化してしまい、薄膜の光学スペクトルが大きく変化してしまうことがわかった。そこで、当初計画していなかった、分散剤を減らす方法に関して重点的に研究を行った。薄膜の電気伝導特性に関する先行研究を参考に、再分散法(吸引濾過による薄膜作製後、溶媒に再度溶解させる)と急速アニーリングの組み合わせが、分散剤除去に効果的であることがわかった。ただし、この方法が全CNT種に適応できるわけではないこともわかり、他の手法も検討し、現在、分散剤除去の目処が立ってきたところである。まだ、無分散剤のナノ複合材料での高温光学測定は実施できていないが、試料作製の目処、並びに物性評価用の光学系が構築はできたので、研究は順調に進んでいると判断し、「おおむね順調」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
高温環境にも耐える、無分散剤の単一種CNT試料の作製に一定の目処はたってきた。一方、BNNTに関しては直径が小さなものを分離できつつあるが、まだまだCNTよりも直径が大きく、複合化した場合にCNTとのバランスが悪くなってしまう。まだ分離方法には改善の余地があり、SEM観察などを用いながら、分離方法を検討する。また、昨年度研究室に導入した、金蒸着装置のパラメータがわかってきたので、実際にナノ複合材料に金を薄く蒸着し、共振器の作製を行う。薄い金に挟まれたナノ複合物質の、室温における反射率または透過率の角度依存性を調べ、励起子ポラリトンの証拠となる励起子ピークの分裂の観測を目指す。励起子ポラリトンの形成には、CNTの密度とナノ複合物質の厚さが重要なので、CNTとBNNTの混合比や量などのパラメータを変えながら、励起子ポラリトン形成の条件を探る。室温・励起子ポラリトンの観測後、レーザー加熱を用いた、熱励起子ポラリトンの観測に挑戦する。レーザー照射で加熱が不十分な場合がありえるので、伝導加熱も可能な光学測定系の構築を、試料作製と平行して行う。
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