2023 Fiscal Year Annual Research Report
Manipulation of Molecular Spin Multi-Qubits by AWG-ESR Technique
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23H01925
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
佐藤 和信 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (90264796)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山根 健史 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 特任助教 (40821682)
杉崎 研司 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任准教授 (70514529)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | パルスESR / 分子スピン量子ビット / 量子状態制御 / 任意波形マイクロ波パルス / 分子スピン量子情報処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、スピン量子ビット系の量子状態を解明するとともに、任意波形マイクロ波パルスESR技術による分子スピン多量子ビット系の評価と量子状態制御を実現することを目的としている。2023年度は、任意波形パルスESR分光器の高感度化、パルス波形最適化を行った。高感度化を行うために、予算計上した14ビットの縦軸分解能をもつ高速デジタイザーを導入し、微弱な信号の検出感度を向上するとともに検出感度領域の増大を図った。この高感度化を通して、雑音レベル以下であった微弱な信号を有意な信号として検出できることになり、炭素同位体などの核スピンが関与する電子スピンの検出を可能にした。任意波形パルスは、スピン系の運動方程式を数値的に解くことにより最適化し、任意波形信号発生器(AWG)でESR実験に適用できるようにした。パルスの最適化により得られる任意波形パルスは、パルスESR分光器と同期させたAWGに高速でメモリー転送し、パルスESRの測定に適用した。また、パルス発生器、AWGなどの周辺機器の安定した通信を行うため、制御ソフトウェアSpecman4EPRを32ビット版から64ビット版にアップグレードし、最新のOS上でパルスAWG-ESR技術によるデジタル制御の下で安定な信号検出と状態制御が可能な実験環境を整えた。 高感度化した分光器の適用として、安定なトリチルラジカル系に着目し、パルスESR測定による量子ビット系の緩和時間測定や過渡的スピン運動の測定を行った。トリチルラジカル系では、高感度検出を通して分子内に一個の炭素同位体が含まれるラジカルを区別して観測することが可能であることを示し、緩和時間の測定から炭素同位体がもつ核スピンの影響を調べた。緩和時間と超微細相互作用など核スピンとの関係を明らかにするとともに、チャープパルスなどの任意波形パルスを用いた量子状態制御の測定を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の特徴的な手法は、任意波形マイクロ波パルスを用いたESR法である。従来の矩形パルスを用いるのではなく、任意波形信号発生器(AWG)を用いることにより信号励起するマイクロ波パルスの制御を精密に行うことを可能にするものである。これまでの単一のマイクロ波周波数をもつ矩形パルスと同程度の強度を持つパルスをAWGが作るパルスで置き換えることが出来れば、十分に分光手法としても適用できるとともに自由なパルス波形を電子スピン状態制御に活かすことが可能である。AWG-ESR分光器を、従来のパルスESR分光器から改造することにより、必要な回路の再利用と最新技術の融合により新しい分光器を効率よく構築することができる。本研究では、更に高感度化を意図して検出感度の向上を目指すための機器更新を行うことにより、広いダイナミックレンジを達成することに成功した。この更新により、実際に強い信号と弱い信号の両者を同じ測定条件の中で同時に観測することが可能であることを示すことができ、分光器能力の向上を実現することができたため、一定の目的を達したといえる。制御ソフトウェアの更新においても、セキュリティの高い最新のOSで実行できるようになったことから、周辺のデジタル機器の安定な高速通信とオンボード積算による高速化が図られたため、今後の分子スピン量子ビットへの応用研究を行う上で独自性を発揮できる環境が整いつつある。今後、分子スピン量子ビット系として適切な系を用いることにより応用研究が展開できるため、期待が大きい。量子ビット系としても、安定な有機ラジカル系に加えて金属-有機構造体(MOF)に希釈された常磁性金属の探索を行うことにより、分子スピン系の多様性を活用した量子ビットの開拓につなげることができると期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
高感度化の評価として、導入した14ビットの縦軸分解能を有する高速デジタイザーによる高ダイナミックレンジを活かして弱い信号強度をもつ信号観測や緩和時間の測定を行い、信号強度の大きく異なるスピン信号の同時観測を行う。これを通じて、分光器としての性能を評価し、高感度機能の向上を目指す。高感度測定における分光器性能の向上には、装置の安定性が信号対雑音比(S/N比)の改善に大きく関与するため、検出感度の向上と併せて信号強度の安定性改善を図る目的で、デジタル発振器を用いてマイクロ波発振回路の安定化を実施する。また、任意波形パルスを用いるパルスESR(AWG-ESR)法の実験として、チャープパルスや量子状態に応じた最適化パルスを適用した測定を行い、ESR信号の感度向上を意識して装置の改良を進める。 測定装置の高感度化を活用した量子状態制御を行うために、安定なトリチルラジカルやヘテロビラジカル系において炭素同位体などの核スピンを含む誘導体に着目し、新たに同位体ラベル分子を天然存在比のままで微弱なESR信号を検出することによって、緩和時間の温度依存性や濃度依存性の測定を行い、スピンデコヒーレンス時間など量子情報の保持に関する基礎的知見を蓄積する。その方法としては、電子スピンニューテーション法や量子位相コヒーレンスによる量子スピン状態の評価、AWG-ESR法による量子状態制御とスピンダイナミクスの観測実験を進める。また、対象を金属-有機構造体(MOF)中に取り込んだ常磁性金属錯体を量子ビットとする希釈構造体に広げて緩和時間を測定し、有効な分子スピン量子ビット系の探索を行う。量子状態制御の展開を見据えて、分子スピン系の長いコヒーレンス時間を確保するための緩和時間制御に関わる指針を検討し、スピン量子ビットの量子情報科学に資する分子スピン系の設計に役立てる。
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Research Products
(11 results)