2023 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation on Chiral Molecular Wire Properties Based on pi-Extended Helical Molecules
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23H01949
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣瀬 崇至 京都大学, 化学研究所, 准教授 (30626867)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | らせん状分子 / ヘリセン / キラリティー / 分子ワイヤー / 分子間相互作用 / 超分子構造 / 円偏光応答性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、π拡張型らせん状分子の有機合成手法の開拓と分子集積を設計することで、「真に異方性の高い」集積構造に由来する分子機能を調査することを目的としている。「真に異方性の高い状態」とは、①電子状態がらせん状分子骨格全体に十分に非局在化し、②その単一分子内のキラルな電子状態が、大きな分子間相互作用を介して、集積構造全体に広がった状態と定義する。 本年度は、らせん状分子の分子末端を化学修飾することで、フロンティア軌道の分子軌道分布や分子集積構造にどのような影響を及ぼすことができるのかという観点から研究を行った。π拡張型ヘリセンの分子末端にベンゼン環を縮環した誘導体の合成に成功し、X線単結晶構造解析からその構造の同定を行った。ベンゾ縮環前後のフロンティア軌道の分子軌道分布の比較を行ったところ、ベンゾ縮環後では分子末端の外側部分に有意に分子軌道密度が非局在化する様子が認められた。 また、分子末端に分子間相互作用部位としてチアジアゾール部位を導入した誘導体を合成したところ、らせん状分子のエナンチオマーを分割する前のラセミ結晶と、エナンチオマー分取後のキラル結晶で、顕著に異なる結晶パッキング構造が観測された。特に、エナンチオマー分取後の結晶ではらせん状分子がらせん軸に沿ってカラムナー状に集積する様式の結晶構造が認められた。量子化学計算の結果から、結晶構造における分子間相互作用を調査したところ、分子末端の化学構造と分子軌道(特にHOMOおよびLUMO)の重なりの違いに依存して、電子もしくはホールが優先的に高い移動度を持つ結晶構造が得られることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、π拡張型らせん状分子の分子末端のπ拡張、分子末端にチアジアゾール部位を導入したらせん状分子、チアジアゾール部位を更に化学修飾した分子末端修飾型らせん状分子など、多くの新規ならせん状分子の合成に成功した。また、(1)らせん状分子がらせん軸方向にカラムナー状に積層したキラル単結晶構造が得られることや、(2)らせん状π共役化合物の化学構造の違いに由来して、「分子ばね」としてユニークな力学特性が得られることなど、当初は予想していなかった新たな知見を複数得ることができた。これらの観点から、本研究計画はおおむね順調に進展していると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
らせん状π共役化合物の分子末端を化学修飾することで、らせん状分子のフロンティア軌道のエネルギーや分子軌道分布を制御することができ、分子集積構造の変化や分子ワイヤー特性の変化が期待できる。 これまでに、らせん状分子末端にチアジアゾール部位を縮環することで、キラルカラムナー型の結晶パッキングが得られる知見が得られた。本年度は、らせん長さが異なる誘導体の結晶パッキングを調査することで、キラルカラムナー型の結晶パッキングの発現に必要な条件の探索を行う。分子間相互作用の大きさを定量的に評価するために、量子化学計算に基づく電荷移動積分値とキャリア移動度の評価を行う。特に、エナンチオマー分取前後の結晶パッキング構造に着目して、キラル分子機能の創出に適した集積構造の探索を行う。 分子間相互作用を向上させる観点から、らせん状中性ラジカル分子の設計を行う。中性ラジカル分子の安定性は、溶液中での吸収スペクトル変化から評価を行い、電子スピンの分子内における空間分布は、ESRスペクトルの超微細構造と量子化学計算による電子スピン密度分布の結果との比較から評価する。さらに、単結晶X線構造解析を用いて、分子間の隣接部位を分子間相互作用の解析を行う。 これらの研究を通して、分子間相互作用の増強に由来する新しい電子物性の発現と、「真に異方性の高い」集積構造に由来する分子機能の開拓を目指す。
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