2023 Fiscal Year Annual Research Report
Development of Nanoscale Viscoelasticity Measurement Method Based on Fluctuation-Dissipation Theorem
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23H02021
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
中嶋 健 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (90301770)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 原子間力顕微鏡 / 揺動散逸定理 / ナノスケール粘弾性計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では揺動散逸定理、より正確には「久保公式」を利用し、高分子複合材料の粘弾性をナノスケールで実測することを目的としている。「久保公式」そのものは久保亮五先生による線形応答理論の帰結であって、決して新規性のあるものではない。MDシミュレーションなどでは緩和弾性率を予測するために本式が利用されている。しかし、そのシミュレーションデータを実験的に検証できる手法は皆無であり、それを実現するのが本研究のテーマである。その実現のために原子間力顕微鏡(AFM)のカンチレバーが感じている熱雑音を利用する。 本研究で提案する手法では通常の測定でよくやるように探針を強く押し込むことはしない。そして加振も行わない。試料表面に優しく接触させるだけという方法を取る。それによって鋭い探針を壊さずに試料と相互作用させ、ナノスケールという高分解能を維持したまま粘弾性データを取得できるようにする。久保公式によれば、応力の自己相関関数から緩和弾性率が求められる。そして揺動散逸定理に基づき、応力の自己相関関数は系の熱雑音から求めることができる。熱雑音の中には幅広い時間領域のデータが暗に含まれているので、周波数掃引なしでも広帯域の粘弾性情報を得ることが期待できる。 初年度は探針、すなわち測定系が有する熱雑音と試料の熱雑音を効率よく分離できる測定系の最適化を、ガラス状高分子をモデル試料として検討した。より具体的にはシリコン基板とその上にポリスチレンの超薄膜を調整した試料について、その熱雑音スペクトルを試料表面からの探針の位置の関数として収録し、シリコン基板とは異なる位置にピークの存在を発見することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した初年度の計画では、測定系が有する熱雑音と試料の熱雑音を効率よく分離できる測定系の最適化を行うために、ゴム状態にある試料とガラス状態にある試料について測定を行うことにしていた。そのうちガラス状態にある試料については実施を完了できたが、ゴム状態にある別試料を用意するよりも温度依存性を見ることの方が効果的であろうという結論に至ったため、ゴム状態にある試料の測定には至らなかった。この部分は次年度以降への課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
シリコン基板の場合(測定系と位置付けられる)とポリスチレンの超薄膜を調整した試料の間にスペクトルの違いがあることがわかったが、その原因を模索するためには異なる試料あるいは異なる温度での測定が必須であるとの認識に至った。温度依存性については次年度に繰り越す。一方で、異なるスペクトルが得られた場合に、どのようにデータを処理して試料からの熱雑音を抽出すれば良いかという点も検討を進めていく必要がある。スペクトルは試料表面からの探針の位置の関数として変化することがわかったので、その事実をベースに検討を進める予定である。
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