2023 Fiscal Year Annual Research Report
全固体空気二次電池の創製:原理実証と有機負極活物質の検討
Project/Area Number |
23H02058
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
宮武 健治 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (50277761)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 空気電池 / 全固体電池 / レドックス化合物 / 負極活物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでにレドックス活性有機化合物として2,5-ジヒドロキシ-1, 4-ベンゾキノン(DHBQ)、固体電解質としてプロトン伝導膜(Nafion)を用いた全固体空気二次電池(SSAB)の作製に成功し、原理実証を行っている。今年度は1,4-ナフトキノン(NQ)を用いたSSABを作製し、高性能化に向けた検討を行った。NQはDHBQと同様に1分子当たり2電子、2プロトンのレドックス反応性を示す。固体電解質としてはNafionに加えて申請者が開発した炭化水素系高分子電解質膜(SPP-QP)を用いた。陽極にはPt/CBもしくはPt/GCB触媒、陰極にはNQと電子導電性材料としてカーボン粉末(Ketjen black)、Nafionを用いた。触媒塗布膜(CCM)はパルススワールスプレー法で作製し、SSABの試験はセル温度40℃、100%RHで行った。 SSAB-DHBQの開回路電圧は0.80V、放電容量は73 mAh/g、クーロン効率は58%であったのに対し、SSAB-NQの開回路電圧は0.88 V、放電容量は78 mAh/g、クーロン効率は85%であった。サイクリックボルタモグラムで観察された負極のレドックス電位はDHBQが0.47 V(vs RHE)、NQが0.34 V(vs RHE)であったことから、より卑なレドックス電位を持つNQを負極に用いたことで高起電力化を達成できた。陽極に用いた触媒の単体を耐久性の高いグラファイトカーボンに替えることにより、サイクル特性を向上できた。また、SSAB-NQにおいてNafion膜よりもガスバリア性に優れるSPP-QP膜を用いたところ、正極から負極への酸素透過による負極活物質の直接酸化が抑制され、クーロン効率を95%にまで向上させることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全固体空気二次電池(SSAB)の高性能化に向けて、計画に従って各種レドックス化合物の可能性を検討した。その結果、1,4-ナフトキノンが酸性溶液中で優れたレドックス活性を示すことを見出すことができた。次に1,4-ナフトキノンを負極に用いたSSABを作製し固体条件における電気化学特性を測定したところ、酸性溶液中と同様にレドックス活性を示すことを確認した。また、予備的ではあるがSSABとしての電池特性(開回路電圧、放電容量、クーロン効率)を測定し、高起電力化を達成することができ、計画通り順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
原理実証のために用いたナフトキノンに加えて、様々なレドックス活性な有機化合物を負極活物質として検討する。具体的には酸素系と窒素系の有機活物質に焦点を絞る。これら化合物を選択した主な理由は、レドックス構造が安定である(酸化型および還元型いずれもが化学的に安定でありかつ可逆的に変換できる)こと、レドックス電位が異なっており幅広い(0.7-0.6 V vs. RHE)こと、電子導電材(カーボン粒子)やプロトン導電材(スルホン酸化ポリフェニレン)と親和性が高く均質な触媒層を形成しやすいこと、移動電子当たりの質量(M/e)が比較的小さいこと、蒸気圧が低く電解質膜を介して正極側から系外に出にくいこと、毒性が低く入手しやすいこと、である。選択した化合物はいずれも2電子、2プロトンが関与するレドックス反応性を示すが、それぞれ以下の異なる特徴を有している。負極活物質を用いた全固体空気電池をそれぞれ構築し、溶液中での半電池測定結果との比較(負極電位、レドックス反応可逆性、クーロン効率)、充放電安定性評価を定量的に行い、本デバイスに適した有機負極活物質および負極構造を選定する。 さらに絞り込んだ負極活物質について、電極構造の微細構造解析と改良設計を行う。レドックス活性分子は各導電体と親和性が高い類似構造を有しているが、界面での吸着や配向の制御を司る因子はまだ理解が進んでいない。まずは上述した負極調製用ペーストの組成と溶媒誘電率・粘度を定量的なパラメータとして、透過型電子顕微鏡(低加速電圧で短時間走査することにより有機化合物を分解せずに明確に観察できる技術を有しているため、被覆構造を正確に把握可能)や電気化学XPS、ATR/FTIRなどによって異相界面の構造を詳細に解析すると共に、レドックス反応活性との関係を明らかにする。
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