2023 Fiscal Year Annual Research Report
12α水酸化胆汁酸による肝脂質蓄積機構ー脂質輸送と鉄代謝の寄与ー
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23H02153
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石塚 敏 北海道大学, 農学研究院, 教授 (00271627)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 誠也 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (40897906)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 胆汁酸 / 肝脂質蓄積 |
Outline of Annual Research Achievements |
非アルコール性脂肪肝疾患の頻度は年々増加し、その発症には脂質蓄積に炎症・繊維化が積み重なると考えられている。汎用される高脂肪食摂取でも炎症・線維化が生じており、上記2つの段階を明確には区別できない。我々は、摂取エネルギー過多で起こる12α水酸化胆汁酸(12αOH)代謝を模倣することで炎症・線維化を伴わない独自の脂肪肝モデルを確立した。これは摂取エネルギー過多で起こる脂肪肝発症初期に生ずる多様な特徴を示す。本研究では、主にこの新規脂肪肝モデルを用いて肝脂質蓄積の誘導機構に関わる経路解明、特に腸肝循環における12αOHの増加が、安定同位体で標識した脂肪酸の輸送等の脂質代謝に及ぼす影響を検証するとともに、肝脂質蓄積に関わる因子の役割と鉄代謝の関与を明らかにする。 Poly(ADP-ribose)polymerase-1(PARP1)はNAD+を基質として核内タンパク質のポリADPリボシル化を介して転写調節に関与し、腸肝循環関連では消化管上皮の生存因子である。肝臓では、このPARP1依存的なPPARαのポリADPリボシル化が脂肪酸酸化を抑制することが脂肪肝形成に関わり得る。そこで、この経路の関与を明らかにするために、免疫沈降等を用いてPPARαに対するポリADPリボシル化活性や、CHIPアッセイを用いたCpt1発現に及ぼす作用を検証した。コール酸の食事負荷により、摂取エネルギー過多で起こる12αOH代謝を模倣したCA摂取ラットにおける肝臓のメタボローム解析の結果、NAD合成に関わる経路の活性化が見られ、Pparaとその下流で脂肪酸酸化に関わるCpt1の発現低下を確認した。これらからCA負荷ラットの肝臓ではPARP1がNAD+を基質としてPPARαをポリADPリボシル化することが脂肪酸酸化の低下につながる可能性が推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
12αOHに対する腸肝組織での代謝応答を調べるために、ラットの飼料に一次BAとして肝臓で合成される12αOH BAであるCAを添加し(0.5 g CA/kg飼料)、12週間飼育した。CA食摂取ラットでは、食餌エネルギー収支に差がなく、肥満にならないにもかかわらず、対照ラットに比べて顕著な肝脂質蓄積を示した。LC/MSを用いたメタボローム解析の結果、CA食摂取ラットの糞便中では、脂肪酸の減少とアミノ酸およびアミン類の増加が認められた。さらに、肝臓における代謝物濃度もCA添加食によって変動し、主に酸化還元に関連する経路が影響を受けることが示された。CA摂取ラットでは肝臓におけるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの濃度が減少する傾向を示すことに加え、肝臓のペルオキシソーム増殖剤活性化受容体α(PPARα)のポリADPリボシル化が進行することを見出した。このことは、CA摂取ラットの肝細胞では、ポリADP-リボースポリメラーゼ1の活性化を介してPPARαシグナルを抑制することを示すと推察される。結果としてカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1の発現抑制を伴うことを見出した。また、CA添加食は、肝臓における還元型のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を生成するペントースリン酸経路に関わる代謝物の濃度を増加させた。糞および肝臓でのメタボロームを併せて解析したところ、大腸で生成されるデオキシコール酸がこれらの代謝物の濃度変化を媒介することで肝脂質蓄積に関わる可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにCA摂取ラットでは、肝臓での脂肪酸合成関連遺伝子の発現が亢進すること、VLDL分泌に関わるApobやMttp発現の低下を見出している。そこで、重水を用いた脂肪酸合成評価系を用いて、肝臓における脂肪酸合成に及ぼすCA負荷の影響について、特に摂食との関連を評価する。さらに、末梢組織での脂肪酸取り込みに関わるリポタンパク質リパーゼの活性を抑制する界面活性剤を用いてin vivoでのVLDL分泌の程度を評価する方法を用いて、CA摂取の作用を明らかにする。VLDL分泌にはインスリンが関与することから、インスリン負荷時のVLDLの分泌抑制に及ぼすCA負荷の影響を明らかにする。一方で、食事脂質吸収が当該肝脂質蓄積に関わる可能性が考えられる。そこで、有機合成により作製した安定同位体で標識したオレイン酸をラットに摂取させて肝臓への取込み、糞への排泄を検証する。マウスで頻繁に用いられるコレステロール添加食は10から12.5 g/kg飼料程度であり、この条件では胆石形成や糞への多量のコレステロール排泄が観察されるが、我々が見出したコレステロール+CA添加食はこれらの症状が殆ど見られない軽微な負荷であり、肝脂質蓄積の初期を反映するモデルとして有用である。このコレステロール+CA添加食摂取マウスでの酸化コレステロール組成等の代謝物とそれらの代謝関連遺伝子の発現をCA摂取ラットでの場合と比較し、コレステロールから酸化コレステロールを経て胆汁酸に至るステロール代謝の動物間での相違や肝脂質蓄積やその悪化に関わる因子の挙動を検証する。
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