2023 Fiscal Year Annual Research Report
魚類消化管の抗原認識機構~下等脊椎動物に粘膜局所免疫機構は存在するか~
Project/Area Number |
23H02308
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
加藤 豪司 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (50624219)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 魚類免疫学 |
Outline of Annual Research Achievements |
水産用ワクチンの投与は主に注射法により行われていが、多大な労働コストや魚体へのストレスが問題となっている。飼料にワクチンを混合して投与する経口投与法は、これら問題点を軽減できるため、現場からの開発の要望は非常に高い。そこで本研究では、腸管粘膜系を介した魚類の免疫応答誘導機序の解明を目的とした。 蛍光染色した不活化菌体をニジマス腸管に直接投与し、24時間後および72時間後に腸管を採取し、10mM EDTAを用いて腸管上皮層を取り除いた後、粘膜固有層に局在する白血球を回収した。また、体腎および脾臓由来白血球を同様の方法で採取した。これら白血球をニジマスの単球・マクロファージ亜集団を特異的に認識するモノクローナル抗体Mmで染色し、フローサイトメーター(FCM)により解析を行った。さらに、腸管の粘膜固有層で確認されたA.s.s.陽性マクロファージ集団をFCMでソーティングし、炎症誘導性(M1)マクロファージ関連遺伝子(IL-1β1、IL-1β2、IFN-γ、TNFα、iNOSおよびSAA)および免疫抑制性(M2)マクロファージ関連遺伝子(IL-10、TGF-βおよびARG2)の遺伝子発現量をリアルタイムPCRにより解析した。 腸管投与24時間後では腸管粘膜固有層由来白血球のうち5.1%、および72時間後では3.0%のマクロファージが不活化菌体陽性だった。一方で、不活化菌体の蛍光シグナルは、脾臓および体腎では観察されなかった。不活化菌体投与72時間後における粘膜固有層中のマクロファージでは、IL-1β1、IL-1β2、IFN-γ、およびTNFα遺伝子が統計的有意に発現上昇していた。腸管粘膜組織において細菌抗原を取り込んだマクロファージは、リンパ組織である脾臓や腎臓へは流入せず、腸管内に留まり、腸管粘膜固有層においてM1型に分化し、炎症応答を誘導すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は魚類の腸管杯細胞を介して取り込まれた不活化菌体は取り込み後にどのように処理されるかを検討し、上記のような結果を得た。進捗状況は研究計画通りであり、おおむね順調であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2年度目は主に、「杯細胞による抗原取込機序の解明」に取り組む。哺乳類のM細胞はトランスサイトーシスにより粘膜上皮で捕捉した抗原を分解せずに内腔側のマクロファージへ引き渡す。これまでの研究では杯細胞や粘膜固有層で観察された不活化菌体の粒子は保持されており、杯細胞もトランスサイトーシスにより抗原を取り込むのではないかと考えられる。そこで、杯細胞の抗原取込機序を明らかにする。トランスサイトーシスは、エンドサイトーシスにより抗原を取り込み、生じたエンドソームが粘膜固有層側へ移動し、エキソサイトーシスにより抗原を排出することで完了する。そこで、ニジマスにA.s.s.不活化菌体を経肛門投与し、経時的に腸管を採取する。腸管の凍結切片を作製し、エンドソーム染色法により抗原の取込から排出までに相当するエンドソームが観察できるどうか検討する。トランスサイトーシスでは、エンドソーム内に取り込んだ抗原の分解は行われない。そこで、上記同様に処理したニジマス腸管の超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡解析を行い、エンドサイトーシスからエキソサイトーシスに至るまで、エンドソーム内に不活化菌体が保持されているかどうかを解析する。
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