2023 Fiscal Year Annual Research Report
Clarification of the molecular mechanism of photosynthetic water oxidation and oxygen evolution
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23H02446
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
野口 巧 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (60241246)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 水分解 / 酸素発生 / 光合成 / 光化学系Ⅱ / プロトン移動 / 赤外分光 / 量子化学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)水分解・酸素発生反応の分子機構の解明:光化学系Ⅱタンパク質における水分解・酸素発生反応におけるプロトン移動機構を明らかにするため、量子力学/分子力学(QM/MM)計算を用いて、プロトン移動経路の有力候補であるCl-1チャネル中の水素結合ネットワークの安定構造および準安定構造を計算した。その結果、Cl-1チャネル上に存在するD1-E65とD2-E312のグルタミン酸ペアがプロトン移動のゲートとして働き、「閉型」から「開型」へ構造変化することにより、グロッタス機構によるプロトン移動が駆動されることが示された。また、Cl-1チャネルの基準振動解析から、このチャネルを形成する水分子およびカルボキシル基のOH伸縮振動のプロトン移動への関与を示した。 (2)Mn4CaO5クラスターの構築機構の解明:シアノバクテリアの光化学系Ⅱタンパク質からMn4CaO5クラスターを除去したアポ光化学系Ⅱを用いて、Mn4CaO5クラスター構築の初期過程の分子機構をラピッドスキャン時間分解フーリエ変換赤外(FTIR)解析を用いて調べた。Mn2+存在下での閃光照射後の時間分解FTIRスペクトルにより、Mn3+への光酸化と、それに続くMn3+の移動とタンパク質コンフォメーション変化を観測した。Mnイオンへの配位子の候補である、D1-D170, D1-E189, D1-D342をAlaに改変した変異体、および、D170に特異的13C同位体置換を施した光化学系Ⅱを用いることにより、最初に光酸化されるMn2+には、D170とE189が配位していることが示された。これらの結果から、Mn4CaO5クラスター構築の初期過程のモデルを提唱した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光化学系Ⅱにおける光合成水分解の分子機構については、大きな問題であったプロトン移動経路、およびその具体的メカニズムを、量子化学計算を用いた結果から示すことができた。また、その触媒部位であるMn4CaO5クラスターの構築過程については、シアノバクテリアの変異体や同位体置換体を用いることにより、構築機構における各アミノ酸残基の役割を明らかにすることができた。また、これまで不明であったMn2+の光酸化後の暗再配置過程が、Mn3+の移動とタンパク質のコンフォメーション変化であることを、初めて実験的に示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
光合成水分解機構については、時間分解赤外分光法を用いて、酸素分子形成が起こるS3 -(S4)-> S0遷移の反応を調べ、カルボキシレート配位子の構造変化、タンパク質のコンフォメーション変化、およびプロトン放出反応を検出する予定である。CaをSrに置換、また、Cl-をNO3-に置換した試料を用いて、酸素発生反応におけるCaおよびClの関与、またCl-1チャネルにおけるプロトン移動機構を明らかにする。 また、Mn4CaO5クラスター構築機構については、以前筆者が開発した、高濃度Mes緩衝剤によるプロトントラップの赤外分光検出の手法を用いて、Mn2+の酸化過程におけるプロトン放出数を計測する。この情報を基に、量子化学計算により、最初の中間体である2核Mn2+Mn3+錯体の構造(μ-oxo架橋かμ-hydroxo架橋か)を明らかにし、カルボキシラート配位子による配位構造と水素結合構造を明らかにする。
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