2023 Fiscal Year Annual Research Report
完了しない種分化には何が足りないのか?:昆虫のホストレースを例に
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23H02543
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
大島 一正 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (50466455)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 交配実験 / 強化 / 同系交配 / 配偶行動 / 集団解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
生態適応がどのように種分化を促進するかを調べるため,クルミホソガの両ホストレースが同所的に生息している地域と,異所的に生息している地域間で,交配前隔離の強化の程度に差が見られるかを検証した.F1世代が死亡するため,より顕著に強化の効果があらわれると予想される交雑組み合わせである「ネジキレースがメス親」の場合の交雑頻度を,クルミレースと同所的に生息するネジキレースを用いた場合と,クルミレースと異所的に生息するネジキレースを用いた場合とで比較した.また,クルミホソガのホストレース間における寄主植物に依存しない交配前隔離の存在を明らかにするため,両ホストレースの雌雄を1頭ずつ交配容器に入れた計4頭での「混合交配実験」と,両ホストレースのメス各1個体にいずれかのホストレースの雄1個体を掛け合わせた計3頭での「オス選択実験」,さらに両ホストレースのオス各1個体にいずれかのホストレースの雌1個体を掛け合わせた計3頭での「メス選択実験」を行い,同じホストレースどうしがどの程度選択的に交配するかを調べた.さらに,「オス選択実験」と「メス選択実験」における配偶行動を撮影し,ホストレース間で同系交配が生じる要因を行動面から探った.これらに加え,クルミホソガの集団遺伝学的解析とその基礎となるドラフトゲノムの整備を行い,クズホソガのクズ上集団とハギ上集団,及びフジホソガのフジ上集団,アサ科・ニレ科上集団の集団遺伝学的解析用サンプルの採集と解析を行った.また,一連の研究中に見つかったホソガ科の2新種を記載した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
集団構造の解析等は,得られたサンプルから順調に進行している.また,本研究の鍵となる行動観察に関しても,赤外線カメラを用いた暗期からのモニタリングが軌道に乗ってきており,これまでのような交配結果のみからの推測に加えて,実際にどのような行動的不和合によってホストレース間での交雑が妨げられているのかが分かりつつある.行動観察には多大な時間を要するが,クルミホソガの配偶行動の基本的なシークエンスが把握できたため,今後は解析のスピードアップが期待される.また,フジホソガやクズホソガのように,ホストレースもしくは寄主上集団への分化が見られる種においても,同様の行動観察系ができつつあり,寄主植物の違いがどのように配偶前隔離に寄与し,そしてなぜに隔離が不完全となるかについて,具体的に調べることが可能な段階に達している.よって,全体として概ね順調に進行していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
クルミホソガに関しては,集団遺伝学的な解析を寄主適応に関わるゲノム領域をランドマークとした比較へと発展させる.また,行動観察の反復数を増やし,より強固なデータを得ることに注力する.クズホソガ等の材料に関しては,行動観察の実験系を本格的に稼働されるとともに,寄主適応に関わるゲノム領域の特定も目指す.また,集団解析に加える地点数を増やすことにも注力する.
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