2023 Fiscal Year Annual Research Report
Arc依存的な永続的記憶および記憶に基づく行動選択の神経機構の解明
Project/Area Number |
23H02590
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
奥野 浩行 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (80272417)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 遠隔記憶 / 最初期遺伝子 / Arc / 認知柔軟性 |
Outline of Annual Research Achievements |
大脳における活動依存的な遺伝子発現は長期記憶の形成・維持に必要であるが、中でも神経活動に応じて素早く一過的に発現する遺伝子群である最初期遺伝子(immediate early genes, IEGs)は特に重要な機能を担っていると考えられている。学習時にIEG陽性となる神経細胞はのちに記憶情報を保持した細胞(エングラム細胞)になることが様々な研究により示唆されているが、その形成過程および記憶の時間経過に伴う脳内動態は不明である。本研究は活動依存的遺伝子Arcの発現を起点とした長期記憶に関連する神経回路形成過程を支える分子・細胞機構を明らかにすることを目的とする。 本年度は頭部搭載型小型顕微鏡を用いて、マウス脳深部からのカルシウム応答および神経活動依存的な遺伝子発現レポーターを計測する条件検討を行った。その結果、海馬において異なる環境への暴露によって異なる細胞群が遺伝子発現応答する様子をタイムラプスライブイメージングで捉えることに成功した。また、ArcレポーターTgマウスを用いて、近時あるいは遠隔期における記憶想起時のArc陽性細胞の全脳マッピングを行った。その結果、前頭前野領域において遠隔記憶想起で特異的な活動上昇を認めた。また、Arcノックアウトマウスにおいては遠隔記憶が著しく障害されているが、このとき野生型マウスと比べ活性が低い脳領域をいくつか同定した。さらに近時から遠隔記憶への記憶遷移におけるArcの必要性を明らかにするため、近時記憶形成後に脳部位特異的Arc欠損を行い、遠隔記憶障害を引き起こす脳部位の一部を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では自由行動下マウスの脳深部からの単一神経細胞レベルでカルシウム応答と神経活動依存的遺伝子発現の計測を行うことを課題の一つとしている。本年度は条件検討として、赤色の遺伝子発現レポーターと緑色のカルシウムレポーターの組み合わせで行ったが、遺伝子発現レポーターの神経活動をトリガーとするシグナル増加とそれに続く減少の時定数が遅い、という問題点が明らかになった。このため、新たな赤色遺伝子発現レポーターの作成を行うとともに、緑色の遺伝子発現レポーターと赤色カルシウムレポーターの組み合わせでの撮像も試みる。別の課題であるArc陽性細胞の全脳マッピングに関しては、得られたデータの解析法に改善すべき点があることが判明したため、新たな解析法を検討中である。さらに、Arcの遠隔記憶における必要性を証明する課題では期待通りの結果が得られたが、さらに他の脳領域や欠損時期について検討を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度以降はArcレポーターTgマウスを用いた活性化神経細胞の全脳マッピングをさらに進める。新たな細胞同定(セグメンテーション)や脳部位同定(レジストレーション)の方法を組み合わせたパイプラインを構築し、効率的な解析プラットフォームを確立する。また現在、新たなArcレポーターマウスの作成を行っており、これまで以上に再現性および定量性をもった解析が可能となることを期待している。自由行動マウスからのインビボイメージングは引き続き推進し、神経応答と遺伝子発現の関係を明らかにしたい。また、時期および脳部位特異的なArc欠損により遠隔記憶障害を引き起こす新たな脳部位の探索を行う。さらに、次年度からは行動柔軟性課題をArc欠損マウスに課して野生型との違いを明らかにし、神経回路や分子機構の解明の糸口とする。
|
Research Products
(8 results)