2023 Fiscal Year Annual Research Report
NMR analyses of structural dynamics underlying kinase signal regulation via phosphorylation and dephosphorylation
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23H02619
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
徳永 裕二 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (80713354)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | キナーゼ / リン酸化 / MAPキナーゼ / p38 / 立体構造 / 構造平衡 / 核磁気共鳴(NMR)法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題においては、MAPキナーゼp38の有する立体構造の動的特徴が、その機能制御において果たす役割を、p38キナーゼ自信が基質となる、上流キナーゼによるリン酸化、およびホスファターゼによる脱リン酸化反応のステップに着目して解析しようとするものである。 R5年度は、p38がキナーゼとして完全に活性化されるために必要である2箇所のリン酸化(pThr-180およびpTyr-182)が、それぞれ異なる2種類のホスファターゼにより脱リン酸化されることで不活性化される過程につき、p38の構造平衡との関係を明らかとすることを目的として、溶液NMR法を用いたp38のリン酸化状態の解析を実施した。このために、キナーゼに保存されたDFGモチーフのPhe-169のゼータ位に由来するNMRシグナルを測定した。この結果、Phe-169に由来するシグナルが3個観測され、p38がリン酸化されていない状態で3状態間の平衡にあることが見出された。溶媒中の常磁性試薬との接触頻度を計測することにより、これらのうちのひとつが、申請者がホスファターゼによるアクセスを受けやすいと考えているDFG-out状態に相当することが示唆された。この平衡は、p38が完全に活性化された二重リン酸化状態においては活性構造であるDFG-in型に偏ったことから、溶液中におけるp38の構造平衡が酵素活性を規定していることが確認された。また、pThr-180が先に脱リン酸化され、pTyr-182が単独リン酸化状態として残されている状態においては、DFG-out状態が増加することが明らかとなり、このことから、一方の脱リン酸化に伴い、他方の脱リン酸化が促進されるような構造的な協働性が存在することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
R5年度に明らかとした、溶液中におけるp38の振舞いは、二重リン酸化体が活性型であるDFG-inを好んで形成すること、および、pTyr-182単独リン酸化体が二重リン酸化体に比してDFG-out構造の存在比を増し、脱リン酸化により有利になると考えられるような平衡のシフトを起こすことは、いずれも構造生物学的に新奇かつ重要な知見といえる。 一方で、R5年度の目標として、上記のほかにpH依存的な構造平衡のシフトと、これらの平衡状態のシフトが実際に脱リン段化反応に与える影響を調べるための、恒常活性化変異体を用いた実験を含む生化学実験を予定していたが、未実施である。これを反映した区分選択とした。 他の研究課題の雑誌論文のレバイス対応等で、当初の予定よりも実験に割くことができる時間が限られてしまったことが、遅延の主たる原因である。 一方、研究遂行上、仮説の大幅な修正を必要とする、または技術的な困難がある等の問題点は生じておらず、研究遂行の見通しは十分にできていることから、R6年度には、実行可能な研究スケジュール設定のもと、引き続き新奇知見を蓄積していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、R5年度に予定した実施内容のうち、p38の構造平衡に対してpHの変化(弱酸性化)が与える影響を明らかとするための溶液NMR測定と、構造平衡の変化がホスファターゼによる脱リン酸化反応の効率に与える影響を実測するための、恒常的活性化変異体を用いた実験を含む生化学的なin vitro脱リン酸化アッセイを優先的に実施する。これらの実験を行うことにより、脱リン酸化の効率を規定するp38の構造平衡についての新奇知見として外部発表を行うことを目指す。 また、既に同定したp38の構造平衡が、上流のキナーゼによるp38のリン酸化(活性化)の効率に与える影響についても、溶液NMR法による構造平衡の解析と、in vitroリン酸化の生化学アッセイを併用する類似のスキームにより進めていく。これらのことより、キナーゼの構造平衡が、その活性を規定するリン酸化状態の制御に密接に関与するという概念を実証的に検討する。 なお、実験を遂行するための人員については、研究費の一部を技術補佐員の雇用に充てるなどすることにより、拡充することも考慮する。
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