2023 Fiscal Year Annual Research Report
マルチモーダルスキルを支える大脳皮質-大脳基底核連関の情報処理様式
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23H02781
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 謙一 京都大学, ヒト行動進化研究センター, 助教 (90455395)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 霊長類 / ウイルスベクター / 解剖学 / 大脳基底核 / スキル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、独自開発した双方向性多重蛍光越シナプストレーシング法や、神経路選択的な機能介入などの先端的ネットワーク解析法を駆使し、多様なスキルの習得と利用に関わる大脳皮質―大脳基底核ループの情報処理回路構造とその機能を解明するための研究を行なっている。今年度は、2種類x4色の感染速度低下・高発現型RVベクターを新規に作成し、in vitroおよびin vivoで感染伝播速度などを検証した。その結果、挿入遺伝子により感染伝播速度が変化するなどの問題が確認されたが、最終的に、Tet-Off法を利用した超高発現型AAVベクターによる軸索トレーシングとの同時適用に適したベクターが得られ、実用性の高い双方向性多重(4重)蛍光トレーシングに適した組み合わせを決定することが出来た。また、スライドスキャナーを利用した切片の高速かつ自動的な撮像法について調整を完了し、機械学習を利用したニューロンラベルの自動検出法、およびラベルデータの標準脳への投影法の開発を進めた。さらに、運動前野の2領域への異なる蛍光タンパクを発現する2種類のRVベクター注入後のラベルに対して半自動ラベリングを行い、ラベルパターンに対しマルコフ連鎖モンテカルロ法やx-means法を利用した空間統計によるラベルパターン分析を利用した結果、大脳皮質―大脳基底核ループ回路における直接路・間接路・ハイパー直接路の情報統合様式の違いを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の研究の目的および実施計画欄に記載した計画が順調に進展している。高発現型狂犬病ウイルス(RV)ベクターの開発、同ベクターと超高発現型アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを利用した双方向性多重(4重)蛍光トレーシングによる入出力同時解析法の開発については、想定外の結果が生じ追加の開発と検証が必要となったものの、最終的に実用性の高い双方向性多重蛍光トレーシングに適した、感染速度低下・高発現型RVベクターと超高発現型AAVベクターの組み合わせを得ることができた。また、逆行性ラベルを半自動的に解析する手法およびラベルパターンの解析法の構築に関しても進展が得られており、運動前野の2領域を対象とした実験により、大脳基底核における情報統合様式について興味深い結果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究はおおむね順調に進展していると考えられるため、今後も当初予定に従って研究を進める。具体的には、前年度組み合わせを決定した感染速度低下・高発現型RVベクターTet-Off法を利用した超高発現型AAVベクターによる双方向性多重蛍光トレーシングを前頭葉の2つの異なる皮質領野(前頭前野・帯状回と運動前野・運動野など)に同時注入し、RVベクターの逆行性越シナプス的感染による、線条体や視床下核におけるラベルの分布、および多重ラベルされた(2つの皮質領野に情報を送る)ニューロンの分布を解析する。また、注入皮質領野からの順行性軸索ラベルの分布を解析することにより、入出力の局在関係、特に線条体・視床下核における単一・多重ラベル部位への各領野からの入力様式を解析する。 ラベル解析に関しては、機械学習を利用したニューロンラベルの自動検出法を開発し、ヒトと同等の高精度ラベル検出を実現し、逆向性ラベルを高速かつ正確に検出できるようにする。これらのラベルデータに対して、マルコフ連鎖モンテカルロ法やx-means法を利用した空間クラスタリング解析などの空間統計を用いたラベルパターン分析を行い、ループ内・ループ間での情報統合パターンを、大脳基底核内の経路ごとに明らかにする。これに加え、注入サルの脳の還流固定後MRI画像と薄切時の切断面画像を利用し、ラベル座標の標準脳への投影を行う事により、複数頭のデータを統合し、大脳基底核を巡る全ネットワークを一つの標準脳空間内で比較することを可能とする。これらの解析によって、皮質領野が大脳基底核と形成するループ回路の基本的フレームワークを明らかにするとともに、複数の大脳皮質―大脳基底核ループ回路間でのグローバルな情報統合様式を解明する。
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