2023 Fiscal Year Annual Research Report
がん治療薬誘導性間質細胞老化の分子病態の解明と治療応用
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23H03318
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kansai Medical University |
Principal Investigator |
坂本 毅治 関西医科大学, 医学部, 教授 (70511418)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 伯享 関西医科大学, 医学部, 助教 (30815882)
城村 由和 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (40616322)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | がん / 細胞老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は化学療法・分子標的治療薬による治療誘導性間質細胞老化モデルの確立を行った。治療薬として作用機序の異なる細胞傷害性抗がん剤と分子標的治療薬を用い、より実際の腫瘍環境に近づけるため同所移植モデルを用いて間質老化細胞の解析を行った。 1.トリプルネガティブ乳がん化学療法モデル:トリプルネガティブ乳がんはパクリタキセルなどの細胞傷害性抗がん剤が標準治療となっている。そこでマウストリプルネガティブ乳がん細胞株EO771の乳腺fat pad 移植を行い、パクリタキセルを週2回投与し、タモキシフェン投与により老化細胞を可視化した。その結果、EO771腫瘍には局在指向性を持って老化細胞が存在し、細胞マーカーの免疫染色により、老化細胞の主体を形成する間質細胞を同定した。また、タモキシフェン投与により同様の間質細胞での老化細胞の数が増加する傾向が明らかとなった。 2. 肺がん分子標的治療薬治療モデル:本モデルではKrasG12C変異を持つマウス肺がん細胞LLCを尾静脈移植し、肺に生着した腫瘍の老化細胞の検出を試みた。LLC細胞はKRAS G12Cを有しているが、NRASにも変異があるためソトラシブに抵抗性を示すため、まずCRISPR/Cas9を用いてNRAS KO LLC細胞を作製した。NRAS KO LLC細胞の尾静脈移植で肺に生着した腫瘍間質の老化細胞を検出したが、EO771腫瘍と異なり腫瘍移植により発生する明確な老化細胞は観察されなかった。また、ソトラシブ投与による間質細胞老化の影響を確認しようとしたが、NRAS KO LLC細胞へのソトラシブの効果が強く数回の投与で腫瘍がほぼ消失していたため、投薬条件の検討に着手した。また、肺転移での散在性腫瘍での解析が困難であるため、肺への直接同所移植の実験系の構築に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
乳がん化学療法モデルでは、当初予定通りの研究成果を得られた。一方、肺がん治療モデルにおいては、NRAS KO細胞を作製する必要が出てきたことや、尾静脈肺転移モデルでは解析の効率が悪いことから、同所移植実験系を立ち上げる必要が出てきており、その分当初の予定より少し研究の進展が遅れている。しかし、研究全体としてはおおむね順調に進展しているため、このような進行状況の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度に確立した実験条件で、治療前後のマウスに低酸素プローブ・ピモニダゾールを投与し腫瘍を摘出する。tdTomato、Mint3、分子X、ピモニダゾール、および間質細胞マーカーの発現を免疫染色で確認し、治療で誘導される老化間質細胞および分子Xの発現とがん微小環境との関連を把握する。続いて、腫瘍組織を分散しフローサイトメーターでtdTomato陽性・陰性腫瘍間質細胞を分離し、single cell (sc)RNA-seq解析を行う。遺伝子発現プロファイルをもとに、がん治療薬投与で細胞老化が誘導される細胞集団をクラスタリング解析し、GSEA解析、GO解析により間質老化細胞特異的なシグナルパスウェイや機能変化を抽出する。さらにCellPhoneDB (Nat Protoc, 2020)を用いたレセプター・リガンド発現解析から、老化細胞と分子X発現細胞の相互作用を推定する。続いて、数十種類のバーコード付き抗体を用いた多重染色により空間一細胞解析が可能なCODEXシステム(BioStream) を用いて、老化細胞マーカー(tdTomato)、分子X、Mint3、間質細胞マーカー、ならびにscRNA-seqで同定された分子の発現を空間一細胞解析する。得られたタンパク発現およびscRNA-seqの結果をCODEX Multiplex viewerと一細胞解析RパッケージSeuratを用いて統合解析し、治療誘導性間質細胞老化による分子Xの誘導機構を明らかにする。同定された分子X誘導機構について、阻害剤や遺伝子欠損マウスを用いた介入実験を行い、治療誘導性間質細胞老化による分子X誘導の阻害が、治療誘導性がん悪性化機構を抑制するかを検証する。
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