2023 Fiscal Year Annual Research Report
動的な微生物活性の評価技術開発:安定同位体基質のRNAへの取り込み定量化
Project/Area Number |
23H03533
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
青柳 智 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (10812761)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀 知行 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 上級主任研究員 (20509533)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | RNA-SIP / Stable Isotope Probing / 微生物生態系 / 代謝フラックス / 定量RNA-SIP / 安定同位体追跡法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は環境中の未培養微生物の機能同定技術であるRNA-SIP (Stable Isotope Probing) における、RNAの同位体標識レベルの差が微生物代謝活性量の違いを反映し得る、という発見に基づき、定量RNA-SIPを開発・適用することで、微生物生態系の機能や代謝活性を定量的に捉えることを可能にするものである。本研究最大の目的は「定量RNA-SIP」技術を開発し、微生物生態系の普遍的な代謝活性量・代謝フラックス解析を可能にすることである。この環境解析ツールの開発により、これまで見逃されてきた生態系代謝フラックスを駆動する高活性な微生物の重要性を明らかにし、生態系の根本理解に大きく貢献することを目指す。 23年度はRNAの13C標識レベルが100%のとき(フル標識)、50%のとき(半分標識)、20%のとき(二割標識)に超遠心により再現的に13C-RNAが集積される密度を一定の値に規定することを目指し、純菌由来のRNAを用いて開発を進めた。13C-RNAおよび対照(12C-RNA)には大腸菌を、バックグラウンド(非標識)RNAには枯草菌をそれぞれ用意した。また「重い」密度へのRNAの移動度を一定にするのを補助するため、超遠心を実施する際に内部標準用・フル13C標識RNAの検討を進めた。13Cイースト由来のRNAを取得するため、培養方法の検討をするとともに、13Cおよび12CイーストRNAの密度分布とその再現性の確認を進めた。またRNAの13C/12Cを明らかにするため、IR-MS分析方法の立ち上げを進めた。開発技術の環境適用を実施するためのラボスケール(10L)の嫌気性廃水処理リアクターにおいて有機物高負荷の模擬廃水にて嫌気連続培養を開始したが、機器トラブルがあり、停止した。装置の構成を変更後に再開予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で取り組んでいる3課題それぞれで以下のような進捗があり順調に進んでいると判断した。 〔課題1〕RNAの13C標識率が100%のとき(フル標識)、50%のとき(半分標識)、20%のとき(二割標識)などの標準RNAを準備するために大腸菌、枯草菌、イーストでそれぞれの培養方法(全炭素のうちの13Cの割合や培養時間など)を工夫することで、それぞれのRNAの調整方法を確定することができた。また内部標準的に使用するイーストRNA密度分布を明らかにするために、12C、13Cのイースト由来RNAを用いて超遠心分離、密度分画、RNA定量を複数回繰り返し、移動度を明らかにした。また大腸菌由来13CRNA(フル標識)が0.05%含まれる時の内標有無条件での大腸菌RNAの密度分布の違いを検討するなど、定量RNA-SIP開発を順調に進めている。 〔課題2〕IR-MS分析でRNAの15N標識レベルの確認を行うための分析方法の立ち上げ(装置の一部変更やメソッドの最適化、前処理条件の検討)を進めた。自然同位体比分析と比べると高濃度であることやRNAの不安定さが分析の課題であり、前者は前処理の希釈やメソッド・装置の改良により良好なデータが取れるようになった。 〔課題3〕開発技術の環境適用を実施するためのラボスケール(10L)の嫌気性廃水処理リアクターにおいて有機物高負荷の模擬廃水を用いて、嫌気連続培養を開始したが、機器トラブルのため約3ヶ月の運転後に停止した。大きな問題はなく、24年度の早い段階で再開予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
〔課題1〕定量RNA-SIPの開発に向けて、また大腸菌由来13CRNAのラベル率が50%のとき(半分標識)、20%のとき(二割標識)などにその13CRNAが0.05%含まれる時の内標有条件での大腸菌RNAの密度分布の違いを定量RT-PCRやアンプリコンシークエンスデータの分析により規定してゆく。再現性や精度の確認のため、複数回の実験を繰り返す予定である。標準RNAの13CRNAのラベル率を密度の違いだけでなく、他の分析でも確認するためにIR-MS分析など分析方法の検討を進める。 〔課題2〕15Nでの高感度RNA-SIPの開発に向けて、標準RNAの準備とそれを混合して超遠心分離、密度分画、RNA定量を進める。窒素での密度分離は炭素と比べると分離がしにくいことが予想される(RNAに含まれるNの割合がCより小さいため)。その場合は課題1での内標(13CイーストRNA)を用いて開発を進めることで打開する。 〔課題3〕23年度に見つかった不具合を解消するため、嫌気性廃水処理リアクターの装置を少し加工した後で運転を再開する。汚泥取得や運転条件の設定、システム構成パーツ類などは準備ができているので、加工完了後になるべく早めの再開を予定している。なお課題1、2の技術を適用するまでに安定運転が継続できていれば本研究課題としては大きな問題はない。
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