2023 Fiscal Year Annual Research Report
Carcinogenic mechanism of chronic arsenic exposure via the dysfunction of NK cells
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23H03549
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
角 大悟 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (30400683)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ヒ素化合物 / 発がん / シアル酸 / ノイラミニダーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
飲料水を介した慢性的なヒ素曝露による多臓器における発がんが問題となっているが、その機序は現在でも不明な点が多い。本年度は、NK細胞が持つ、がん細胞殺傷に関わる因子へのヒ素化合物の影響について検討すると同時に、がん細胞が持つ、NK細胞からの攻撃回避機能に対する亜ヒ酸の影響について、以下の3課題について検討を行った。 <課題:NK細胞が持つ、「正常細胞」と「がん細胞」を見分ける能力への影響>については、NK-92細胞への亜ヒ酸曝露により、抑制性受容体のKIR2DLファミリーの上昇を見出している。一方、活性化受容体については検討したものの中では有意な変動は検出されなかった。 <課題:NK細胞が持つ、免疫抑制Immuno-checkpoint、Glyco-checkpointに対する影響>については、現在、NK細胞への亜ヒ酸の曝露により、Glyco-checkpointに関わるSiglec7および9の発現が上昇することを見出している。 <課題:正常細胞へのヒ素化合物の長期曝露による、NK細胞攻撃回避システムの解析>についてHaCaT細胞に亜ヒ酸への曝露後、細胞表面にあるシアル酸量をHPLCで定量したところ、亜ヒ酸曝露によりシアル酸量が増加した。そこで、細胞表面のシアル酸が亜ヒ酸によって増加する機序として、シアル酸含有糖鎖の合成と分解の2つの経路に着目し検討を進めた。まず、シアル酸含有糖鎖の合成に関与しているシアル酸転移酵素(ST)のタンパク質発現量を比較したところ、亜ヒ酸曝露後48時間の段階でST3Gal3とST6Gal1の発現量が増加した。ST活性は亜ヒ酸によって増加する傾向が見られた。次に、糖鎖に結合したシアル酸を加水分解するノイラミニダーゼ(NEU)の活性に対する亜ヒ酸の影響を検討した。その結果、4日間の亜ヒ酸曝露によりNEU活性は有意に低下した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<課題①:NK細胞が持つ、「正常細胞」と「がん細胞」を見分ける能力への影響>NK-92細胞への亜ヒ酸の曝露により、「正常細胞」と「がん細胞」を見分ける能力を持ついくつかの受容体の変動について明らかにしつつある。IL-2の添加により減少する抑制性受容体KIRファミリーの発現量が、亜ヒ酸の同時曝露により抑制された。一方で、活性化受容体に属する分子に関しては亜ヒ酸による変動は検出されなかった。 <課題②:NK細胞が持つ、免疫抑制Immuno-checkpoint、Glyco-checkpointに対する影響>NK細胞への亜ヒ酸の曝露により、Glyco-immune checkpointに関わる因子として、NK-92細胞に強く発現しているSiglec7,9 のmRNA発現量を検討したところ、Siglec7および9のmRNA量が発現が上昇した。現在、さらなる解析を進めている。 <課題③:NK細胞が持つ、サイトカイン遊離活性への影響>NK-92細胞へのIL-2添加により誘導されるIFN-γの産生に対して、亜ヒ酸が抑制することを見出している(既報)。そこで、昨年度はIL-12単独、あるいはIL-2とIL-12の共添加により誘導されるサイトカイン量への亜ヒ酸の影響を検討した。その結果、IL-2単独添加に比べてIFN-γの遊離量は著しく上昇したが、亜ヒ酸の同時曝露により、IFN-γの遊離量は抑制された。 <課題④:正常細胞へのヒ素化合物の長期曝露による、NK細胞攻撃回避システムの解析>現在HaCaT細胞を中期的に亜ヒ酸に曝露すると、NK細胞の癌細胞への攻撃抑制に関わるシアル酸を細胞表面に提示すること、さらにその機序についてノイラミニダーゼの酵素活性の阻害が関与していることが示唆された。 以上のことから、概ね進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
<課題①:NK細胞が持つ、「正常細胞」と「がん細胞」を見分ける能力への影響>昨年度では、IL-2の添加による受容体の変動に対する亜ヒ酸の影響について検討を進めた。本年度に関しては、IL-2 + IL-12添加による抑制性受容体および活性化受容体の変動を明らかにして、それらの発現変動に対する亜ヒ酸の影響を明らかにする。 <課題②:NK細胞が持つ、免疫抑制Immuno-checkpoint、Glyco-checkpointに対する影響>昨年度の検討で、NK細胞への亜ヒ酸曝露によりSiglec-7および9の発現が変動した。そこで、本年度は、Siglec-7および9の発現が変動の原因、およびそれに起因するNK細胞の殺傷活性への影響を明らかにするとともに、Immuno-checkpointに関わるPD-1の発現変動に関しても検討する。 <課題③:NK細胞が持つ、サイトカイン遊離活性への影響>昨年度の検討により、IL-2 + IL-12によるIFN-γの遊離に対する亜ヒ酸の影響を検討した。そこで、本年度はIFN-γ以外のサイトカイン(例、IL-6、IL-10など)遊離への亜ヒ酸の影響についても検討を進める。 <課題④:正常細胞へのヒ素化合物の長期曝露による、NK細胞攻撃回避システムの解析>昨年度の検討により、HaCaT細胞に亜ヒ酸への曝露によりノイラミニダーゼ活性の低下を伴った細胞表面でのシアル酸量の増加を検出した。本年度は亜ヒ酸によるノイラミニダーゼ活性阻害の機序、ならびにHaCaT以外の細胞腫においても同様の結果が観察できるかについて検討を進める。さらに、亜ヒ酸曝露による細胞表面のシアルさん量の増加によってNK細胞の認識が減弱するかについて、NK細胞による細胞攻撃を指標に検討を進めていく。
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