2023 Fiscal Year Annual Research Report
Politics of Mothering in Contemporary Japan
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23H03653
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tsuda University |
Principal Investigator |
北村 文 津田塾大学, 学芸学部, 准教授 (60535384)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 泰子 関西学院大学, 社会学部, 教授 (20546733)
藤田 結子 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 准教授 (30453533)
元橋 利恵 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 招へい研究員 (50846748)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 母 / 母性 / マザリング / 批判的言説分析 / エスノグラフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、現代日本社会のマザリングをめぐる政治について、1)理論的研究、2)経験的研究を通じて新たな視座をうちたてることを目的とするものである。今年度は特に2)を推し進め、代表者・分担者・協力者がそれぞれ批判的言説分析およびエスノグラフィーの方法論で経験的調査研究を行った。前者では「母性」「愛着理論」「少子化」「ワーママ」などの言説がメディアや政治的空間においてどのように表象されるのかを分析した。後者では、障害のある子を育てる母親のライフストーリー研究や、移住する家族におけるグローバル・マザリングについてのインタビュー調査、地方都市における母親の社会運動についての参与観察研究などを実施した。年度を通じて計6回の研究会を開催し、これら調査について研究報告を行い、活発な議論を行った。 また、1)の理論的研究についても英語圏のマザリング研究のレビューを行い、北米のマザリング研究と日本の母性研究およびケア・フェミニズムとを比較対照することで、その理論的重複と差異について考察した。特に、ネオリベラリズムとポストフェミニズムの潮流が「母」をもとりこみ、生み育てが「自己責任」「選択」のレトリックにさらされている現状を批判的に分析するとともに、それが日本では今なお根強い国家家族主義や家父長制のイデオロギーと連関する様態に着目した。 加えて、本課題の目的3)マザー・リサーチャーのポジショナリティについての再帰的分析についても研究会で議論を重ねた。特に上記2)のエスノグラフィーを実施するにあたって生じた調査者自身の葛藤や逡巡の経験について、分析を行った。あわせて、フェミニスト・カウンセリングやフェミニスト参加型アクションリサーチの方法論にいてもそれぞれのケーススタディいついて議論し、知見を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題は、最初3年間において代表者・分担者・協力者がそれぞれ1)理論的研究、2)経験的な調査研究を遂行し、定期的に研究会で進捗状況の報告・議論や知見の共有を行うとともに、3)再帰的分析を行う、という計画のもとに進めている。その後、個別の調査研究の蓄積を集約し、新たなマザリング研究の視座を構築することが最終目的である。上記のとおり、1)2)3)ともに順調に進捗しており研究者間ですこぶる活発な議論を行っていることから、当初の計画どおりに進展しているといえる。 さらに、国内外の研究者とのネットワーキングも進んでおり、特に、マザリング研究の世界的中心ともいえるInternational Association of Maternal Action and Scholarship (IAMAS)では、2023年ならびに2024年の大会において本課題メンバーが数少ないアジアからの参加者として貢献を続けている。また、2024年3月のGender in an Age of Global Care Crisis Conference(オックスフォード大学)でも、本課題メンバーが研究発表と議論を行うことができた。マザリングを主題とした国際シンポジウム開催などの布石としたい。 加えて、今年度の本課題遂行においては、母親コミュニティや子育て支援活動へのアウトリーチ活動も積極的に行った。地方自治体での講演や講座、NPO等の組織との連携、メディアへの取材協力などである。これらは上記1)2)の成果に基づくものであるとともに、調査研究に新たな知見をもたらした。さらに3)調査者のポジショナリティの問題とも深く関わるという点、そして上記のフェミニスト参加型アクションリサーチの一環ともなるという点において、本課題遂行における方法論的進展にもつながった。当初本課題の計画にはなかった重要な成果を得たといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の計画のとおり、2024年度は引き続き2)経験的探究をそれぞれに進展させ、さらなるデータ収集とその分析を行う。研究会ではその進捗状況を報告・議論するとともに、1)理論的探究との接合および3)再帰的分析を進め、マザリング研究と母性研究の架橋を目指す。国内外での学会発表および日英語の学会誌への論文投稿を重ね、調査研究のさらなる研鑽へとつなげる。 本課題はマザリングを主題とした学術書の出版と国際シンポジウムの開催を目指すものであり、2024年度にはその具体的な構想も進め、翌年度以降の実現を目指す。さらに上記のアウトリーチ活動を継続的に行い、研究者ネットワークだけでなく生み育ての現場との連携にも注力する。
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Remarks |
元橋利恵「書評 池松玲子著『主婦を問い直した女性たち』」『大原社会問題研究所雑誌』774号、55-58、2023年4月 村田泰子「Doing Sociology「ふつうの母親」の経験に言葉を与える」『ソシオロジ』211号、掲載決定
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