2023 Fiscal Year Research-status Report
単層磁性遷移金属ハライドにおける新奇磁性の原子レベル探索
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23KF0136
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長谷川 幸雄 東京大学, 物性研究所, 教授 (80252493)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
LI WENBIN 東京大学, 物性研究所, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2023-09-27 – 2026-03-31
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Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / 二次元磁性層 / スピン偏極走査トンネル分光 / 量子スピン鎖 |
Outline of Annual Research Achievements |
CrBr3やCrCl3などファンデルワールス結合による層状構造を持つ磁性体である金属ハライドの単層膜を分子線エピタクシー法で作成し、原子スケールでの磁化方向決定や励起に伴うエネルギー損失を観測することができるスピン偏極走査トンネル顕微鏡を用いて、二次元磁性体特有の現象を解明することを目的としている。 基板として用いたAu(111)との格子不整合に起因するモアレ構造が走査トンネル顕微鏡観察により見出され、スピン偏極顕微鏡観察では、モアレ構造を反映する特異なスピン配列構造が観察された。第一原理計算により同構造に於いては、Cr原子間距離のわずかな変化によりCr原子間の交換相互作用の符号が変化することが見出されたことから、この特異なスピン配列がモアレ構想によるCr原子間距離の変更によるものであると推論している。現在、構造から予想される原子間距離の分布から交換相互作用の値を見積もり、見積もられた交換相互作用によるモンテカルロ計算から顕微鏡観測されたスピン構造が予測されることを確認することで、この推論の検証を進めている。 また低被覆領域に於いては、CrBr2をユニットとする量子スピン系が実現していることが、非弾性トンネル分光から判明している。ユニット数が異なるさまざまな長さを有する鎖構造のスペクトルから、遮蔽された近藤共鳴やスピン励起信号による解析を行い、系統的なスピン結合系の構築と現象解明を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二次元磁性層の作製やスピン偏極トンネル顕微鏡による原子分解能でのスピン方向観測など、当初課題としていた項目には着実に到達している。また、ポータブル真空容器や試料ホルダーの開発により作製した試料の光電子分光による測定にも成功するなど、おおむね当初の予定どおりに進展していると言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により明らかになってきた現象につき、更なる解析を進めるとともに、面内での磁気異方性を持つとされるCrCl3についても、スピン偏極顕微鏡観測を進め(分子線エピタキシ―による原子層薄膜の作製は既に確認済)、その素性を明らかにする。面直異方性を持つとされるCrBr3で明らかにされた現象と併せて、包括的な理解を進めていく計画である。
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Causes of Carryover |
使用している低温走査トンネル顕微鏡に想定外の修理があり、予定していた液体ヘリウム使用料が少なくなったが、その分は次年度に使用することとした。
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