2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23KJ0016
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小山 正登 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | シアン化水素 / コルク組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
樹皮は、維管束形成層より外側の全組織であり、木部と形成層を害菌の侵入から守る防御機能を持つ。しかしながら、その防御機構の詳細は未解明である。これまでの研究で、培地上に置いたナナカマドの内樹皮片から白色腐朽菌のカワラタケの菌糸成長を強く阻害する揮発性成分が発散し(Koyama et al. 2024)、その抗菌活性には、樹皮に含まれるシアノゲン配糖体が加水分解されて発生するシアン化水素(HCN)が寄与する可能性を示した。そこで本研究では、ナナカマドの内樹皮のどの細胞・組織からどの程度の量のHCNが発生するのかを調べることで、化学的な防御機構をより詳細に解明することを目的としている。それに加え、防御の第一線を担うナナカマドの外樹皮がどのように菌糸の侵入を遮断するのか、その物理的な防御機構についても検討することを目的としている。まずは、HCNの存在下で黄色から赤褐色に変色するピクリン酸紙を用いて、培地上のナナカマドの内樹皮片から発生するHCNを検出した。続いて、特注の密封型箱型チャンバーを用いて、林野に生育するナナカマドの生立木からもHCNが発生することを確認した。さらに、そのHCN量を定量したところ、シアン発生植物に相当する量のHCNが発生することが示された。加えて、地上高によって樹皮の外観が異なるナナカマド生立木を供試木として、走査電子顕微鏡・光学顕微鏡を用いて各地上高の樹皮の解剖学的特徴および菌糸体の分布を観察した。その結果、胸高部から地際部にかけて組織構造に違いが見られた。胸高部の滑面域では、外樹皮は一層の周皮から構成されていたのに対し、地際部では胸高部の外樹皮で見られなかったリチドームが発達していた。また、胸高部では菌糸体が外樹皮表面の剥離部にのみ観察されたことから、コルク組織が菌糸の侵入を防ぐのに有効であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
培地上のナナカマドの内樹皮片からだけではなく、生立木のナナカマドの内樹皮からもHCNが発生することが確認されたことは、生立木においてナナカマドの樹皮の化学的防御にHCNが寄与しうることが示唆される重要な成果となる。しかしながら、「ナナカマドの内樹皮のどの細胞・組織からHCNが発生するのか」という点については、進捗に遅れが生じている。具体的には、Tissue Print法によるamygdalinとβ-glucosidaseの局在解析を試みた。β-glucosidase溶液を浸漬したニトロセルロース紙を樹皮組織に貼り付け、ニトロセルロース紙をはがした後、紙上に硝酸水銀(Ⅰ)飽和溶液を滴下し、黒色の分布を観察した。その結果、クリアな黒色の分布は観察できていないため、酵素溶液の濃度や、樹皮組織とニトロセルロース紙の反応時間を検討する必要がある。それ以外の部分については、予定通り進展したため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
外樹皮の物理的な防御機構をより詳細に解析するため、地際部の外樹皮で観察された菌糸が穿孔する師部繊維・コルク組織の細胞壁の微細構造の観察およびスベリンの沈着を観察する。具体的には、エポキシ樹脂で包埋した樹皮組織片からダイヤモンドナイフを設置したウルトラミクロトームで切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行う。また、フルオロールイエロー088で樹脂包埋切片を染色後、光学顕微鏡カメラシステムを用いて紫外線励起による試料の蛍光を観察する。さらに、これまでに得られた研究成果を論文にまとめ、公表する。
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