2023 Fiscal Year Research-status Report
鳥インフルエンザウイルスの病原性発揮における2つの表面糖蛋白質機能バランスの解明
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23KJ0059
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 大樹 北海道大学, 国際感染症学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | インフルエンザウイルス / 病原性 / ヘマグルチニン / ノイラミニダーゼ / 糖鎖 / ニワトリ |
Outline of Annual Research Achievements |
鳥インフルエンザウイルスは2つの糖タンパク質ヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)を持ち、HAはウイルスが受容体であるシアル酸糖鎖に結合する機能を、反対にNAは受容体からウイルスを遊離する機能を持つ。これまでHAの開裂部位のアミノ酸配列に加えて、NAの酵素活性中心である頭部と膜貫通領域をつなぐ軸(ストーク)領域のアミノ酸の欠損が本ウイルスのニワトリにおける病原性獲得に関与していることが知られていたが、その詳細な分子基盤は明らかになっていない。そこで、NAストークのアミノ酸欠損部位に複数のN型糖鎖付加部位が含まれることに注目し、アミノ酸欠損の本態は欠損部位に存在する糖鎖が無くなることであるという作業仮説を立て、糖鎖の機能的な意義を解析した。 今年度は(a)ストーク領域に欠損を認めないNA遺伝子、(b)ストーク領域のアミノ酸を欠損したNA遺伝子、(c)ストーク領域の糖鎖付加部位を欠失するアミノ酸置換を入れたNA遺伝子をそれぞれクローニングし、これら(a)~(c)の異なるNAを持つウイルスを作出した。ストーク領域のアミノ酸欠損ウイルスは欠損のないウイルスと比較してニワトリに対する病原性が高かった。一方、ストーク領域の糖鎖を欠失したウイルスを接種したニワトリは様々な転機を示し、これは本ウイルスのRNAの2次構造に起因する遺伝的不安定性によることが示唆された。 そこで、NAストーク領域の糖鎖欠損ウイルスについて、この不安定性を代償するアミノ酸置換を加えた変異体を作出し、これを用いてニワトリにおける病原性を比較した。本ウイルスはNAストーク領域に糖鎖を保持したウイルスと比較してニワトリに対して高い病原性を示し、感染個体はアミノ酸欠損ウイルス接種個体と同様の転機を示した。以上より、NAストーク領域に存在する糖鎖の欠損がウイルスのニワトリに対する病原性を高めることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では、鳥インフルエンザウイルスのニワトリに対する病原性発揮メカニズムについて、①NAストーク領域欠損の個体レベルおよび②細胞レベルでの機能的意義の検討、③ニワトリへの馴化過程におけるHAとNAの分子共進化の解析を予定している。このうち①について、NAストーク領域の糖鎖欠損がニワトリに対する病原性を高めることを示す結果が得られ、計画通りに進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画のうち、①NAストーク領域欠損の機能的意義について、糖鎖の欠失による病原性の上昇を証明することができた。そこで、②NAストークの糖鎖欠損が細胞に及ぼす機能的な影響および、③HAとNAの分子共進化の中で、糖鎖の欠失がアミノ酸欠損として選択される分子基盤を明らかにするため、引き続き本研究を遂行する。
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Causes of Carryover |
今年度NAストーク領域の糖鎖付加部位の欠損がニワトリに対する病原性を高めることを明らかにしたが、特定のアミノ酸配列(N-X-S/T)で規定される糖鎖付加モチーフに実際に糖鎖が付加することを調べる必要が年度末に生じたため、必要な経費を次年度使用額とした。また、本研究成果について現在論文執筆を進めており、英文校閲費および論文投稿料として次年度支出予定である。
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