2023 Fiscal Year Research-status Report
構造変化の精密制御に基づく新奇応答系構築と完全キラルスイッチングの実現
Project/Area Number |
23KJ0065
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田所 朋樹 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 構造有機化学 / 機能性分子 / 酸化還元特性 / 異性化 / クロミック挙動 |
Outline of Annual Research Achievements |
C=C二重結合は通常平面構造をとるが、嵩高い置換基を複数導入した超混雑エチレン(OCE)の多くは、平面から逸脱したfolded型構造をとる。これらは光や熱などの外部刺激に応答し、立体構造を変化させることがあるため、クロミック分子や分子マシンの開発に利用されてきた。一方、OCE類のほぼ全てにおいて、光定常状態の存在や速い熱的構造変化により、複数の準安定構造を選択的に得ることは困難である。そこで、本研究では、新たな分子設計により複数の安定構造を創出し、緻密な異性化応答の実現を目的に、pi拡張及びヘリセン構造を導入した剛直な中央骨格を持つ誘導体を設計した。 一般に、複数状態をとり得る分子の異性化では、複数の異性体が生じるため、特定の異性体が選択的に得られることは極めて稀である。これに対し本研究では、二つのC=C二重結合周りの活性化障壁に差をつけたユニットを導入することで基底状態及び励起状態の異性化経路を制限する手法を考案した。これにより、光異性化と熱異性化で経由する構造が異なるヒステリシス特性を持つ応答系の構築が実現し得る。 また、pi拡張された中央骨格の類縁体が、可視域の強い吸収に加え、可視光の蛍光を発することが報告されている。そのため、吸収の長波長シフトが予想されるため、可視光駆動型の応答性分子としても期待されるだけでなく、構造変化による吸収特性および発光特性の劇的な変調も期待される。 一方で、本研究で設計した中央骨格自体の研究報告例は少なく、骨格自体も非常に興味深い。そこで、置換基導入により酸化種を安定化することで、骨格自体の酸化還元挙動、それに伴う光学的特性の変調についても調査する計画である。これにより、新たな機能性色素材料の構築が可能になると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合成の根幹を担う中央骨格部分のペリレン類縁体の高効率な合成法を確立した。加えて、重要な前駆体のX線結晶構造解析に成功し、ヘリシティを有していることが明らかとなった。このヘリシティの反転障壁はDFT計算より約9 kcal/molと見積もられた。また、このペリレン類縁体は500 nm程度に強い吸収帯を持ち、赤色の蛍光挙動を有することが明らかとなった。これより、構造変化に起因するHOMO-LUMOの軌道分布変化により、可視光によるフォトフルオロクロミック挙動についても期待される。また、臭素によるブロモ化についても精製法を工夫することで良好な収率で得ることが出来ている。 また、ペリレン誘導体に対する置換基の導入にも成功しており、可視域に強い吸収を持つ酸化種及び中性種が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
刺激応答性ユニットの導入手法について検討を続ける。合成完了次第位、各異性体を分割し、光/熱異性化挙動の調査を行う。また、難溶解性となることが想定されるため、アルキル基などを適宜追加し、溶解性の向上を図る計画である。 ペリレン誘導体については、光学的特性および酸化還元挙動について測定を行う。また、電子供与性から電子求引性置換基へと変化させた場合のこれらの物性変調についても調査する。DFT計算やAFIR法でヘリシティの変化について追跡するだけでなく、TD-DFT計算やNICS等も適宜実施する計画である。
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