2023 Fiscal Year Research-status Report
液体の動的濡れ広がり過程時に生じる局所的熱流をミクロから解き明かす
Project/Area Number |
23KJ0090
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
楠戸 宏城 東北大学, 流体科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 動的濡れ現象 / 分子動力学法 / 熱流解析 / すべり |
Outline of Annual Research Achievements |
マクロスケールの平衡状態の濡れ,すなわち静的濡れにおいては,固体表面上における固気液三相の交線である接触線に対して固気・気液・固液の界面張力がつり合うことで固体面と気液界面の成す角である静的接触角が決定される.一方,接触線が固体面上を動的に移動する動的濡れ現象においては,接触線近傍における固液の摩擦力や液体内部の粘性によりその動的接触角は静的接触角から変化することが知られる.これまでの研究により,非平衡分子動力学(NEMD)シミュレーションを用いたLennard-Jones(LJ)流体からなる動的接触線近傍における熱流解析により,バルク部では粘性散逸により発熱する一方,前進接触線・後退接触線では流跡線に沿った内部エネルギー変化によって各々発熱・吸熱することがわかっている.本研究では,現実世界への還元性の高い水の解析にも着手し,水からなる動的接触線近傍の温度分布を解析することで,LJ流体の場合と同様の発熱・吸熱現象が生じることがわかった. さらに,ナノスケールにおける物質輸送において重要である固液界面におけるすべりに関する解析も進めており,特に固体と液体間の速度差であるすべり速度と摩擦力の比である固液摩擦係数の算出が重要である.Couette流系を用いたNEMD解析では,摩擦力とすべり速度を直接計算することで摩擦係数の算出が可能となるが,ミクロな系ではすべり速度の定義には任意性がある.そのため本研究では,固液間の摩擦力による散逸に関してミクロスケールとマクロスケールを接続することで,Couette流系で熱的観点からすべり速度・固液摩擦係数を定義する方法を提案した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
通常は偏微分で記述されるマクロのエネルギー保存則を,物質微分を用いて書き換えることで,流体の発熱・吸熱現象は応力の仕事だけでなく流跡線に沿った内部エネルギー変化によることが分かった.さらに,Lennard-Jones(LJ)流体からなる動的接触線について,さまざまな濡れ性・壁面速度においても,バルク部では前者の粘性散逸が支配的である一方,動的接触線近傍においては後者の内部エネルギー変化の項が支配的であることを示した.この研究成果については国際学会誌で発表済みである.また,水からなる動的接触線の解析について,LJ流体とは異なり,Coulomb力に起因する電気的影響の考慮が難しいが,前述の流跡線に沿った内部エネルギー変化に起因する発熱・吸熱項は流体分子の持つエネルギーおよび軌跡がわかれば計算可能であるため,解析を進めている段階である. 以上により,動的濡れ現象特有の熱輸送現象に関する解析だけでなく,固液界面のすべりに関する解析も進めている状況であるため,本研究はおおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究で,水からなる動的接触線近傍で生じる発熱・吸熱現象は,温度分布を計算することで定性的にはわかったが,定量的な解析には至っていない.そこで次年度は,前述の流跡線に沿った内部エネルギー変化に起因する発熱・吸熱項は流体分子の持つエネルギーおよび軌跡がわかれば計算可能であるため,その解析を引き続き進める. また,本年度の研究では,平滑面上の濡れ・滑りしか取り扱えていないため,次年度は,凹凸を有するようなより実在的な壁面上の現象を取り扱う.
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Causes of Carryover |
令和5年度に雇用PDとして採用され,3年分の追加交付があったため.また,次年度に海外出張が重なる見込みが立ったことに伴い,それに備えるために一部の予算の使用を保留したため. 今年度に余剰した予算は,次年度の旅費や計算機の追加購入に補填する.
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