2023 Fiscal Year Research-status Report
励起子分子における量子もつれとその光学的検出の理論研究
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23KJ0109
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大瀧 貴史 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | 励起子 / 励起子分子 / 量子もつれ光子対 / ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、励起子分子における量子もつれのダイナミクスを光学的な手法で調べるための理論構築を目的としている。初年度は、励起子分子中の励起子間の(擬)角運動量に関する量子もつれのダイナミクスと、励起子分子から放出される光子対の偏光量子もつれのダイナミクスとの間の対応関係について調べた。理論模型として、二種類のサイトからなる二次元イオン性拡張ハバード模型に光子自由度を加えたものを用いた。有限サイズ効果を回避するために二次摂動ハミルトニアンを構成し、10×10サイト程度の大きなシステムサイズにおける励起子分子波動関数を厳密対角化で取り扱えるようにした。励起子分子準位に二光子共鳴するように光子エネルギーを設定し、もつれのない二光子状態を初期状態として波動関数の時間発展を計算した。上述の模型は四回回転に対して対称であり、四回回転に対応する擬角運動量が保存する。励起子は擬角運動量の他に重心運動量や電荷分布といった自由度を持つが、擬角運動量の自由度のみの量子もつれを適切に定義した。この量子もつれのダイナミクスと放出される光子対の偏光量子もつれのダイナミクスを比較したところ、一定時間以上の時間が経つとこれら二つのダイナミクスが対応することが明らかとなった。このことは励起子間の擬角運動量に関する量子もつれが光子対の偏光量子もつれに転写されるという従来の解釈と対応するものである。また、電子・正孔系の自由度を用いて記述された励起子分子波動関数から励起子間の擬角運動量に関する量子もつれを定式化したのは本研究が初めてとなるが、その定義の妥当性を示唆する結果でもある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度のうちに論文投稿の段階へ至ることができなかったため、上記のような自己評価とした。当初はスピン自由度のない理論模型を用いて量子もつれ光子対生成に関する計算を行っていたが、スピン自由度を入れないと励起子分子中の励起子間の量子もつれを定義するのが困難であることが分かり、模型を変更して再計算することとなった。その後に採用した模型においても、計算後に別の問題が見つかり、再度模型を変更することとなった。このような手戻りの発生により、研究は当初の想定よりもやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は密度行列分光に対応する計算を行う。密度行列分光では、励起子分子を生成するためのポンプ光を入射後、時間差をつけて様々な偏光のプローブ光を入射し、誘導放出光の偏光状態を調べている。このプローブ光子と誘導放出光子の二光子の密度行列の遅延時間依存性から、励起子分子の量子もつれのダイナミクスを求めている。この密度行列分光に対応する計算として、次の2種類の計算を行う。 (1)これまでの量子もつれ光子対生成に関するシミュレーションで求めた波動関数に対し、ある時刻で様々な偏光のプローブ光子を加え、その後の誘導放出光子の偏光状態を調べる。このような計算をプローブ光子を加えるタイミングを変えて繰り返し、光子系に関する量子もつれの遅延時間依存性と励起子分子における量子もつれのダイナミクスを比較する。 (2)誘導放出は光を古典的に扱っても出現する現象である。ポンプ光とプローブ光を古典的な光として取り扱って密度行列分光に対応した計算を行い、光を量子的に扱った(1)の計算と比較を行う。また、複数の励起子分子ピークをポンプ光パルスで共鳴励起したときの計算も行う。このとき、励起子分子の量子もつれのダイナミクスには干渉による振動が期待される。この振動構造が密度行列分光で再現可能かを調べる。
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