2023 Fiscal Year Research-status Report
寒気のせき止めがもたらす気象災害の系統的理解を通じた予測向上への挑戦
Project/Area Number |
23KJ0136
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小原 涼太 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-06-29 – 2026-03-31
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Keywords | Cold-Air Damming / 大雨予測 / 予測向上 / 数値モデル / メカニズムの理解 |
Outline of Annual Research Achievements |
南北に連なる山地の東側で寒気がせき止められて生じるCold-Air Damming (CAD)と呼ばれる現象と関東地方の大雨の関係の系統的な理解を目指した研究を実施した。2019年10月の大雨事例を対象とした数値モデルによる事例解析を行い、関東を取り巻く山地の高さがせき止める寒気の量を変えることで寒気外縁部の沿岸前線およびそれに伴う大雨の位置に影響を及ぼすことを示した。したがって、数値モデルの高解像度化によるモデル内での地形の精緻化がこのようなタイプの大雨の位置予測向上に寄与することが示唆された。この結果を2023年3月にJournal of the Meteorological Society of Japanに投稿し、現在査読中である。 上記の事例解析に引き続いて、関東地方の大雨とCADの気候学的関係を明らかにするための統計的研究を実施した。1980年から2019年までのCAD事例と降水事例の抽出を個別に行い、(1)CADと大雨の気候学的関係、(2)大雨を伴うCADの特徴、および(3)CADに伴う大雨のメカニズムを調査した。その結果、関東南部の広範囲において、大雨がCADを伴う割合が30%を超えることが示された。また、CADは年間で平均約13.5回発生し、その3分の1程度が24時間100ミリ以上の降水を伴った。コンポジット解析の結果、大雨をもたらすCADは(1)南岸低気圧と北東の高気圧の間の気圧傾度が大きく、(2)関東付近の傾圧性が強く、(3)関東平野への水蒸気供給が強いという特徴が示された。多量の水蒸気が流れ込んだ際の、寒気の上への持ち上げによる降水のトリガーとしてCADが重要であることが示唆された。この結果をまとめた論文を4月末にScientific Online Letters on the Atmosphere (SOLA)に投稿し、現在査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、令和5年度中に2019年10月のCADを伴う大雨事例の研究論文の投稿と、長期の観測データに基づく大雨とCADの気候学的関係の調査と論文化を行う予定であった。前者の事例解析論文の投稿は令和6年3月に完了し、現在査読中である。一方、気候学的関係を統計的に調査した論文は年度内の完成には至らなかったが、令和6年4月末に投稿を完了した。また、統計解析の作業と並行して、数値実験による複数事例の再現性評価も実行する予定であったが、こちらは未着手である。 こうした遅れは、傷病による中断期間が発生したことによる。当初は令和5年4月からの採用予定であったが、傷病による療養のため8月までの採用を中断し、9月から研究に着手することになった。そのため、研究に数カ月程度の遅れを生じることとなったが、研究着手後は順調に作業を進め、年度内の事例解析論文の投稿にこぎつけた。令和6年4月には統計研究の論文投稿も完了し、抽出された事例についての数値モデルの予測精度評価に着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
統計研究で抽出したCAD事例と大雨事例の長期データを使用し、大雨を伴うCADの詳細な構造やメカニズムの調査を進めるとともに、数値モデルを用いた調査に着手する。詳細な構造や特徴の解析には、高解像度(水平5km)の日本域領域再解析データを活用する予定である。全球の再解析データでは解像度が粗いために現実的な地形効果を反映したCADのメソスケールの構造を調べることは困難であるが、地形による障壁効果をある程度考慮できる高解像度の再解析データを使用することで詳細な構造の調査が可能であると考えられる。数値モデルを用いた調査に先立ち、抽出事例における現業モデルによる過去の予測精度の評価を行い、下層の温度場や降水予測の課題を調査する。数値モデルを用いた研究では、CADを伴う複数の大雨事例を対象とした再現実験による大雨形成のメカニズム調査を行うことに加え、高解像度化による予測向上の効果がどの程度得られるか評価する。すでに行った事例研究・統計研究により、大雨を伴うCADの特徴や基本的メカニズムは明らかになりつつあり、それらの結果は予測における地形効果の重要性を示している。また、CADによる大雨事例が少なくないという統計研究の結果から、そのようなタイプの大雨の予測を向上することの恩恵は大きいといえる。こうしたことを念頭に置いて、統計研究で抽出されたCADを伴う大雨事例の予測においてモデルの高解像度化による予測向上の寄与がどの程度あるのかを明らかにする。さらに、事例研究では数値モデルで用いる乱流スキームの違いもCADを伴う大雨の再現に影響を与えることを確認しており、地形だけでなく乱流スキームの影響を調べる感度実験も追加的に行うことを検討している。
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Causes of Carryover |
令和5年度4月から8月までは傷病により採用を中断していたため、その期間に参加を検討していた学会への出張費の支出がなくなったため次年度使用額が生じた。また、研究を中断したことで令和5年度中に投稿予定の論文の作成が遅れ、年度内での投稿費の支出が不要となったためである。 令和6年度は、当初計画していた支出に加え、令和5年度の投稿が遅れた論文2本の投稿費として次年度使用額を充てる予定である。次年度使用額を除く令和6年度の助成金は、数値モデルによるCADを伴う大雨の研究成果の論文投稿費、成果発表のための学会出張費、および数値モデルによる計算データの保管と解析に必要な電子機器の購入費として支出予定である。
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