2023 Fiscal Year Research-status Report
複数の脱離基の精密制御によるポリスルフィド類の網羅合成法の開発
Project/Area Number |
23KJ0191
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
浅沼 隼人 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | ジスルフィド / ジチオ環化 / TFA / アミノ化 / アズラクトン / DABCO / リンカー / アミノ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究において,酸の有無によって直行的に利用可能な2種類の脱離基として,アミノ基とイミド基をジスルフィド構造上に配置した,新たなジスルフィドプラットフォーム分子を開発した.本試薬の変換反応としてはこれまでに,アミノ基側の変換反応として,アリルシラン,電子豊富アレーン,アルキニルシランなどとの反応に成功している.令和5年度では,更なる網羅的な置換基導入が可能な基盤の整備を目指し,新たな変換反応の開発を行った.まず,酸の存在下で,分子内に求核部位を有するアルキンやオレフィンとの反応によってアミノ基側で環化を伴いながらジスルフィド構造を導入できる手法を開発した.TFAの存在下で,求核部位を有するアルキンとの反応によってベンゾヘテロール環を構築できた.また,求核部位を有するオレフィンとの反応によって,ラクトン環やエーテル環などを構築することができた.さらに,求核部位を持たないオレフィンを用いた場合,TFAが活性化剤かつ求核剤として作用した三成分連結反応が進行することを見出した.このように,アミノ基側に様々な置換基を導入し,幅広いN-ジチオフタルイミド誘導体の合成が可能になった.これに加えて,残ったフタルイミド部位は,優れた脱離能を有することから,様々な求核剤を導入することで,多彩なジスルフィドの多様性合成を目指した.その結果,アミンとの反応によって,短段階で幅広いアミノジスルフィド誘導体を迅速に合成することが可能になった.その他にも,フタルイミド部位の変換として,アミノ酸等価体であるアズラクトンをプロ求核剤とする置換反応を開発した.さらにアズラクトン導入後に,ペプチドを用いた開環反応を行うことにより,ジスルフィドを介してペプチドと生物活性化合物を連結することができた.本手法は,ジスルフィドを用いる創薬研究や薬物輸送におけるリンカーの導入等に大きく寄与するものと期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
N-ジチオフタルイミドのアミノ化反応に関する研究は,令和5年度内に論文を出版している.酸の存在下における,分子内に求核部位を有するアルキンやオレフィンとプラットフォーム分子の反応においては,ベンゾヘテロール環を構築できただけでなく,求核部位を有するオレフィンとの反応によって,ラクトン環やエーテル環,ピロリジン環などを構築することができた.これらの検討の中で,ゲラニルフェノールを基質とすることで,シクロヘキサン環と6員環エーテルの連続的な形成を伴って,ジスルフィド構造が導入された3環性の生成物が良好な収率,単一のジアステレオマーで得られることがわかった.さらに,反応中間体を観察するため,求核部位を持たないオレフィンと反応を行ったところ,TFAが活性化剤かつ求核剤として作用した三成分連結反応が進行し,ジスルフィドとオレフィン,TFAが三成分連結された化合物が単一のジアステレオマーで得られることを見出した.また,アズラクトンのN-ジチオフタルイミドによるジスルフィド化反応においては,天然体および非天然体のアミノ酸由来のアズラクトンに加え,ペプチド由来のアズラクトンにも適用できた.さらにアズラクトン導入後に,ペプチドを用いた開環反応を行うことにより,ジスルフィドを介してペプチドと生物活性化合物を連結することができた.以上述べた成果から,これらの反応においても令和6年度内での論文化を目指しており,鋭意検討と執筆を行っている.
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度では,フタルイミド側の変換として,アミンや,アズラクトン由来の安定エノラートとの置換反応を開発した.これに加えて,フタルイミド側をLewis塩基触媒によって活性化することで,ニュートラルな求核剤との反応が進行し,より多彩な変換反応が行えると考え,現在検討を行なっている.初期検討の結果,テトラヒドロチオフェン(THT)をLewis塩基触媒とし,ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶媒中で,求核部位を有するアルキンとのジチオ環化反応が,良好な収率で進行することが明らかになった.今後は,更なる求核剤の検討や,キラルなLewis塩基触媒を用いた不斉反応への応用を検討していく.また,これまでのプラットフォーム分子は,アミノ基の活性化の際に,量論量以上の酸が必要であるという課題が残されていた.そこで今後の研究においては,プラットフォーム分子の脱離基をチューニングすることで,触媒量の活性化剤を用いた変換反応へと展開する.初期検討において,アミノ基の代わりに,アルコキシ基を配置したジスルフィドプラットフォーム分子を,これまでのプラットフォーム分子を用いて合成することに成功している.また本試薬は,触媒量のLewis酸によってアルコキシ基側でジチオ環化反応が進行する萌芽的な知見も得ている.このような知見をもとに,今後の研究においては,求核剤の検討やキラル酸触媒の検討を行う予定である.さらには,本試薬の光反応への応用を検討していく.
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Causes of Carryover |
令和5年度は,国際学会へ参加しなかったことや,オープンアクセス等を行わなかったことなどが理由で,主に旅費とその他費用に余裕が生じた.令和6年度では,複数の論文投稿を目指しており,それらのオープンアクセス費用や,積極的な学会発表へ利用する予定である.
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