2023 Fiscal Year Research-status Report
High-Pressure Pore Water Experiments and Nanograin Reaction and Mechanical Properties for Revealing Brittle-Plastic Strength of the Crust
Project/Area Number |
23KJ0205
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
古川 美穂 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 大陸地殻 / 脆性-塑性遷移領域 / 地殻強度 / 摩擦滑り / 非晶質化 / 動的再結晶 / μ-CT / 亀裂 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、上部地殻の脆性-塑性遷移領域における地殻強度に着目し、石英・曹長石混合粉末の模擬断層試料の観察を通して、地殻強度の変化を支配する微細変形機構の解明を目指すものである。研究初年度である2023年度は主に、(1)エネルギー分散型X線分光法(EDS)で取得した元素マップの画像解析、(2)力学結果・組織観察結果・解析結果の総括、(3)3次元μ-CT解析に向けた準備を行った。(1)では、電子顕微鏡像上で判別の困難であった石英と曹長石を分離することが可能となり、試料内部での鉱物相の分布を可視化することに成功した。その結果、アスペクト比や伸張方向といった指標を用いて、石英は動的再結晶、曹長石は伸長、といった鉱物種の違いによる歪解消機構の違いを数値的に示すことができた。(2)については、浅部条件では深さと共に地殻強度が増加し、剪断面に沿った摩擦滑りが支配的になる一方、深部条件では深さと共に地殻強度が減少し、曹長石相の非晶質化や石英の再結晶が支配的な変形機構となる可能性を示した。深部条件ほど歪の増加に伴う地殻強度の減少程度が大きくなることから、天然では断層の発達に伴う強度の低下が深部ほど顕著になることを示唆した。(1)・(2)に関して、国際学会を含む複数の学会で報告するとともに、国際学術誌への投稿に向けて論文原稿の執筆を進めた。(3)は、ユトレヒト大学(オランダ)への試料輸送のうえ、現地でのCT画像の撮影を委託した。本格的な画像解析は次年度以降に渡航してから行うものの、取得済みのCT画像の比較から、想定深さ条件の増加に伴い、亀裂の連結度が増加する様子が捉えられた。これは、天然において、上部地殻の脆性-塑性遷移領域の深部で流体が局在化し、内陸大地震の引き金となり得ることと一致的であり、今後、詳細な解析に進むための予察的な結果が得られたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では初年度に高圧水を導入した変形実験を開始する予定であったが、EDSで取得した元素マップの解析に時間を要したため、新たな変形実験には着手できなかった。しかし、本研究は大陸地殻を構成する多相系岩石の変形機構の解明を目指しており、この目的を鑑みると、岩石を構成する各鉱物の変形機構の違いに焦点をあてることは重要である。ゆえに、初年度は実施済みの試料の解析を重点的に行うこととした。想定深さの増加に伴う各鉱物の変形機構の変遷を明らかできたことから、上記の目的を達成に近づくことができた。したがって、新たな実験には着手しなかったものの、画像解析に重点を置いたことは、多相系試料を用いたという本研究の独自性を際立たせることにつながったと考えられる。 また、当初は初年度にユトレヒト大学(オランダ)への渡航を実施し、現地でμ-CT画像の撮影と画像解析を行う予定であった。しかし、渡航は次年度以降に実施することになり、撮影は試料輸送のうえ委託したため、μ-CT画像の解析には着手しなかった。その一方で、撮影済みの画像を比較し、想定深さ条件の増加に伴う亀裂連結度の増加という全体的な傾向を把握することができた。このように、本格的な画像解析に取り掛かる前に試料間の比較をしたことにより、今後の解析について、亀裂の抽出に焦点を当てることから開始するという方針を立てることができた。 初年度は、高圧水の導入による実験とμ-CT画像の解析を行わなかったという点で、本課題の達成度としてはやや遅れているという評価を下した。しかし、実施済みの実験の総括から多相系岩石の変形機構に関して考察を深めることができたうえ、次年度以降に行うμ-CT画像の解析を円滑に進めるための準備をすることができた。したがって、初年度の取り組みは、本研究課題の目的達成のための基盤の構築という観点で重要な位置づけを成すものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、2023年度に取得したμ-CT画像の解析を本格的に行う。ユトレヒト大学(オランダ)に3か月以上滞在し、試料中の亀裂の3次元分布を明らかにする。また、μ-CT画像中の石英・曹長石相の抽出を試み、各鉱物相の連結度といった3次元分布と、試料全体の強度の関係を明らかにする。計画段階では、数ヶ月間を目途にμ-CT画像の解析を完了させることとしていたが、解析ソフトウェアの操作の習熟や機械学習を用いた解析手法の確立に要する期間を考慮すると、試料中の空隙率の算出をすることに数ヶ月、鉱物相の抽出まで完了させるには2024年度の大部分の時間を費やす必要があると考えられる。ゆえに、解析の大部分を2024年度以内に完了させ、2025年度初め頃に論文を投稿するという計画のもと進めていく。 μ-CT画像の解析と並行し、2024年度以内に、2023年度までに執筆を進めてきた乾燥条件下の剪断変形実験に関する論文を投稿する。また、数ヶ月間のユトレヒト滞在中に、乾燥条件下の実験の回収試料について、ナノスケールに及ぶ微細組織観察を実施する予定である。この観察により、反射電子像上で見られた流動組織内部の微細構造が、非晶質物質かどうかを確かめることができる。計画段階では、ナノスケールに及ぶ観察は主に高圧水を導入した新たな実験の回収試料について実施する予定だったが、実施済みの乾燥条件下の実験から回収した試料の比較によっても脆性-塑性遷移領域の変形機構を網羅するのに十分な微細組織の差異が見られると予想されることから、まずは乾燥条件下の実験の回収試料について、可能な限り詳細なスケールまで微細構造を観察することを優先させる。高圧水を導入した新たな実験は、実験アセンブリの組み立て法の確立といった準備期間を数ヶ月間設けたうえで、2024年度中に開始することを目指す。
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Causes of Carryover |
当初の計画では初年度にユトレヒト大学(オランダ)への渡航を予定していたが、渡航を次年度以降に変更したため、渡航にかかる予定だった旅費が次年度使用額として生じた。また、初年度に開始する予定だった高圧水を導入した実験を次年度以降に行うため、実験に関わる消耗品費が次年度使用額として生じた。 今後の使用計画としては、主に旅費・消耗品費・その他の項目での支出が見込まれる。このうち、旅費については、2024年度から2025年度にかけて合計6ヶ月以上、ユトレヒト大学での研究の実施を予定しているため、海外渡航に関する旅費が約100万円かかる予定である。また、研究成果を国内学会(日本地球惑星科学連合大会)や国際学会(アメリカ地球物理学連合大会、欧州地球科学連合大会)で発表する予定であり、現地参加のための出張旅費として約50万円を要すると考えられる。消耗品費については、高圧水を導入した実験に必要な部品や試料の準備に、約20万円かかる予定である。その他の項目では、上記学会での発表要旨投稿料に各約1万円(計約3万円)、論文投稿に伴って投稿料と英文校正費で1件あたり約60万円かかると見込まれる。2024年度から2025年度にかけて2件以上の論文投稿を予定していることから、投稿に伴って少なくとも約120万円を要する予定である。
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Research Products
(4 results)