2023 Fiscal Year Research-status Report
有機触媒を用いる新規不斉四級炭素構築法を鍵としたモルヒネの短工程全合成
Project/Area Number |
23KJ0207
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
波多野 裕太郎 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 有機触媒 / 不斉合成 / 天然有機化合物 / 全合成 / 四級炭素 |
Outline of Annual Research Achievements |
麻薬作用の分離が求められる天然物モルヒネの効率的な合成法の確立を目的として、本年度以下の研究を行った。 本研究の準備段階として、前年度に有機触媒を用いる不斉[3+3]付加環化反応の開発および目的物モルヒネの全炭素の導入を完了した。 本年度はまず、新規不斉四級炭素構築法の開発を行った。マグネシウム、リチウムなどの典型金属に加え、パラジウム、ニッケル試薬などの遷移金属を用いた場合、望みの化合物の収率は0%から中程度に留まったが、分子内ラジカル反応を用いた場合に、高収率かつ高立体選択的に目的物を与えることを見出した。 不斉四級炭素構築法の開発によりモルヒネの五環性骨格のうち三環の構築を完了したため、官能基変換による残る2つのヘテロ環の構築を経て天然物への誘導化を行った。Mulzerらの報告に従いジヒドロフラン環を構築したのち、残るピペリジン環の構築を目的とした三級水酸基の脱水を試みた。福山らが報告した類似化合物の脱水反応の条件を含む十数種の反応条件は本化合物には適用できなかった一方で、パラジウム触媒を用いた炭酸アリル化合物の脱炭酸型脱離反応を用いると、目的の化合物が高収率で得られた。得られたジエノンの分子内共役付加反応と続く変換反応により、市販原料から19工程でモルヒネの全合成を達成した。しかし、収率および工程数に改善の余地があることから、今後更なる最適化を行う。 また、終盤の三級水酸基の脱水の検討において、アミン部位の官能基の違いにより目的の脱水反応とは異なる求核付加反応が進行し、ハスバナンアルカロイドの基本骨格の構築が可能であることを見出した。本知見を元に、共通中間体を用いたハスバナンアルカロイドの分岐合成へと展開予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、令和5年度は目的物モルヒネが有する不斉四級炭素の構築法を開発する予定であった。本年度は計画を上回り、不斉四級炭素構築法の開発を完了しただけでなく、その後の誘導化による目的物の全合成を達成した。さらに、終盤の官能基変換の条件検討の際に、類似した骨格を有する他の天然物へ誘導する分岐合成への展開が期待される結果が得られた。すなわち、ピペリジン環の構築を目的とした三級水酸基の脱水反応の条件検討において、分子内に存在するアミン部位にメチル基が導入されている場合には脱離が進行しモルヒネの合成中間体が得られる一方で、メチル基が導入されていない場合にはアミンの求核付加が進行することでピロリジン環を形成し、ハスバナンアルカロイドの基本骨格を有する化合物が得られた。ハスバナンアルカロイドはモルヒネの類似構造を有することから、その生物活性が注目されている天然物である。天然に得られるハスバナンアルカロイドはモルヒネと逆の絶対立体配置を有するため、モルヒネと同一の立体化学を有する非天然型の化学合成が求められている。 以上により、本年度は計画を上回る成果が得られただけでなく、同一中間体から他の天然物へ誘導する分岐合成の可能性を示唆する萌芽的知見が得られたことから、当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度、高収率・高立体選択的な不斉四級炭素構築法を新たに開発し、目的物の全合成を達成した。一方、本合成の工程数や収率は改善の余地を多く残している。今後は、工程数の削減、および1つの反応容器で連続的に反応を行うワンポット反応を用いた最適化を行い、本合成の更なる効率化を目指す。 続いて、当初の計画を上回って早期にモルヒネの全合成の目途がついたことから、同一中間体を用いたハスバナンアルカロイドへの分岐合成研究を計画に追加する。ハスバナンアルカロイドへの誘導には、モルヒネのジヒドロフラン環を構築せずにピロリジン環を構築する必要があるが、既に検討を行い、中程度の収率で目的のピロリジン環が構築できることを確認した。今後は本反応の最適化の後、2段階の酸化反応、メチル化を経てハスバノニンへ誘導する予定である。 その後は当初の研究計画に従い、多様な化合物ライブラリーの構築と、合成した化合物を用いた構造活性相関研究へと展開する。
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Causes of Carryover |
当該年度はパソコンおよび関連機器の購入および試薬の購入のため、上記の経費が必要となる試算だったが、パソコンは以前から使用していた自費購入のものを1年間使用し、モニター等のパソコン関連機器は、学生の増加により研究室内のデスクの空きがなくなったことから配置スペースを確保することができず、購入を取りやめた。試薬は、主に研究室に以前からあったものを使用したため、支出額は少なくなった。 一方で、翌年度は、短期留学生の帰国でデスクの空ができたことでモニターの購入を検討しており、研究室内で使用していた試薬の在庫が減っていることから試薬購入費の増加を見込んでいる。よって、来年度は上記記載の次年度使用額に加え、請求した助成金の合計約90万円を使用予定である。
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