2023 Fiscal Year Research-status Report
ショウジョウバエ始原生殖細胞において翻訳活性の性差が形成される機構と意義の解明
Project/Area Number |
23KJ0247
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
増川 柾樹 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
|
Keywords | 始原生殖細胞 / 翻訳活性 / 性分化 / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
有性生殖を行う多くの生物には、メスとオスの二つの性があり、それぞれ卵と精子を産生する。卵と精子に分化する細胞系譜は、生殖系列と呼ばれ、胚に形成される始原生殖細胞(PGC)に由来する。ショウジョウバエでは、胚発生過程においてPGCの性がオスまたはメスに決定し、遺伝子発現や形態に性差が生じる性分化の過程を経て卵または精子に分化する。しかし、PGCの性決定および性分化機構の詳細は未解明であり、解決すべき重要課題の一つとなっている。本研究では、代表者が発見した「ショウジョウバエの性分化段階PGCにおける翻訳活性の性差」が生じる機構と、その生物学的意義を明らかにすることを目的としている。これにより、PGCの性分化機構の一端を明らかにすることを目指す。 本年度は、PGCにおける翻訳活性の性差が形成される機構を明らかにするため、PGCで機能する性決定遺伝子が翻訳活性の制御に働くか解析を進めた。その結果、オス決定遺伝子であるPhf7と、その制御を行うJAK/STAT経路を、RNA干渉法を用いて抑制すると、翻訳活性の性差が減弱することが明らかになった。この結果は、これらオス決定遺伝子が翻訳活性の性差形成に必要であることを指し示している。さらに野生型と比較してPhf7機能欠損系統のPGCにおいて発現量が減少する遺伝子を、Phf7機能欠損系統のPGCにおけるトランスクリプトームデータから特定した。この中には、リボソーム生合成など翻訳に関わる遺伝子が含まれており、この遺伝子がPGCにおける翻訳活性の性差形成に機能していると現在予想している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画にある通り、PGCで機能する性決定遺伝子が翻訳活性の制御に働くか解析を行い、オスの性決定に関わるPhf7遺伝子と、その制御を行うJAK/STAT経路が翻訳活性の性差形成に必要であることを指し示すことができた。またこの結果を踏まえて、Phf7遺伝子によってPGCにおける発現量が制御される遺伝子を探索し、PGCにおいて翻訳活性の性差形成に必要な遺伝子の候補を絞り込むことができた。 このように、本年度はPGCにおいて翻訳活性の性差を形成する機構の解析を通じて、性差形成に機能すると予想される遺伝子の選定を行い、次年度へと繋がる成果を上げることができた。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の2つの解析を行い、当初の計画を達成する。 (1)PGCにおいて翻訳活性の性差形成に機能する遺伝子の特定 これまでの研究で、PGCにおいて翻訳活性の性差形成に必要な遺伝子の候補を絞り込むことができた。これら候補遺伝子をRNA干渉法によって発現抑制した際に、翻訳活性が低下するかOPP標識法を用いて明らかにし、翻訳活性の性差に必要な遺伝子を同定する。
(2) PGCにおける翻訳活性の差異が、生殖系列の性分化に及ぼす影響の解明 PGCにおける翻訳活性の性差がオスの性決定機構によって制御されていたことから、翻訳活性の性差はオスの性分化に必要であると現在予想している。これを検証するために、(1)で同定した翻訳活性の性差を生じさせる遺伝子の発現をRNA干渉法により抑制することで、オスPGCにおける翻訳活性をメスPGCと同程度にした時、精巣内における生殖細胞の分化が正常に進行するかを観察する。
|
Causes of Carryover |
消耗品費を用いてOPP標識試薬を購入する計画であった。しかし、試薬の使用量を減らすプロトコルを確立し、当初より使用量が減少したために該当年度中の追加購入には至らず、物品費に差額が生じた。また、国内学会参加に旅費を使用する予定であったが、別資金による支出をおこなったため、旅費に差額が生じた。 次年度使用額の使用計画として、当初次年度に購入予定であった物品に加えて、当該年度に購入予定であったOPP標識試薬の購入を行う。さらに、次年度に参加予定の学会が遠方で開催され、当初の予算よりも多く旅費を使用するため、次年度使用額を用いて補完する。
|