2023 Fiscal Year Research-status Report
ヒトの新規胆汁酸トランスポーターの発見とそれを標的にする食品の機能の解析
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23KJ0382
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒部(高島) 優季 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | トランスポーター / 胆汁酸 / ポリフェノール |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管の胆汁酸トランスポーターは脂質代謝を制御するため、生活習慣病の治療や予防の標的である。本研究は、腸管の胆汁酸トランスポーターについて、A. 新規トランスポーターの同定および食品成分による制御、B. トランスポーターの基質輸送機作における立体構造解析を目的としている。 これまで、腸管の胆汁酸トランスポーターはASBTのみであるとされてきたが、ヒト腸管上皮モデル細胞においてASBT以外のトランスポーターの寄与が示唆された。そこで、このトランスポーターの同定を試みた。候補のSLCトランスポーター9種の発現細胞をそれぞれ作出した。胆汁酸取り込み試験によりスクリーニングしたところ、3種を候補として見出した。これら3種が実際に腸管上皮モデル細胞にて胆汁酸輸送を担うか確かめるため、遺伝子発現、タンパク質発現を検討した。その結果、2種がタンパク質レベルでも発現することが明らかとなった。以上より、ヒト腸管上皮モデル細胞においてはASBTに加えて2種類のSLCファミリートランスポーターも胆汁酸吸収を担う可能性を見出した(論文投稿中、学会発表1)。また、ヒト消化管組織における候補トランスポーターの発現を定量したところ、大腸において高発現であったものが1種類存在した。今後、生理的意義について検討予定である。 また、我々が今までに見出した、腸管胆汁酸トランスポーター(ASBT)を阻害する食品成分である紅茶テアフラビンの詳細な作用機序の検討を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A: 当初の計画では1年目にトランスポーター輸送機作解析と寄与率の推定、および阻害成分のスクリーニングを予定していた。トランスポーターの輸送機作解析については、腸管上皮モデル細胞および発現細胞で完了しており、寄与するトランスポーターの同定に至った。一方、当初はノックダウンによる寄与率の推定を予定していたが、siRNAの導入効率が非常に低いため、現在はノックアウトに切り替えて検討している。また、トランスポーターを阻害する食品成分の探索について、新規トランスポーターの寄与率は正常ヒト回腸において限定的であると考えられたため、ASBTを阻害するテアフラビン類の詳細な作用機序解明を目指すこととした。テアフラビン類はシステイン残基との相互作用が示唆されたため、モデルシステインであるNACを用い、非細胞系においてもテアフラビン類とNACが反応すること、またテアフラビン類の中でもTF2Aが最も相互作用が強いことを見出している。 B: 当初の計画では1年目後半よりASBTにおけるタウロコール酸およびグリココール酸の輸送機作の差を立体構造の観点から考察することを予定していた。しかし、ASBT発現細胞におけるより詳細な解析の結果、胆汁酸の種差よりもヒト型ASBTとマウスマウス型Asbt間の種差の方がの差が大きいことが明らかとなった(学会発表2)。よって、この差をもとに、ヒト型ASBTの立体構造解明に繋がる知見を得ること、また、食品成分によるASBTの阻害メカニズムを探索することとした。 以上より、本研究は当初の計画と一部方針を転換した部分があるものの、一定の成果を得られており、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
A:現在までの新規トランスポーターの検討では全て発現細胞を用いてきたが、発現細胞のみではトランスポーターごとの寄与を推定することが難しい。そこで、より新規トランスポーターの寄与を明確にするためにノックアウト実験を行うこととした。2024年度はCRISPR/Cas9システムにより候補輸送体1種をノックアウトし、pHおよび塩類の条件が異なる緩衝液中で胆汁酸の取り込みを測定することで、我々が見出したトランスポーターの寄与をより詳細に明らかにしていく。また、ASBTを阻害する食品成分であるテアフラビン類の阻害機作について、MALDI-TOF/MSを用いて相互作用部位の同定を試みる。また、Bの構造解析と併せて阻害機構の詳細を明らかにすることを目指す。 B: 前述の通り、胆汁酸種ではなく、ヒト型ASBTとマウスマウス型Asbt間の輸送機作の差に着目し、NTCPを鋳型に立体構造モデルを作製した。現在までに基質輸送に重要と推察される部位に4点、ヒト型とマウス型で異なるアミノ酸が同定された。2024年度はマウス型ASBTにヒト型の変異を導入し、タウロコール酸取り込み試験および速度論的解析を実施することで、輸送機作の差の説明を試みる。
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Causes of Carryover |
CISPR/Cas9システムおよび免疫染色にかかる費用が大きいため、次年度使用が生じた。
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