2023 Fiscal Year Research-status Report
超低運動量電子で切り拓くエネルギーフロンティアにおける超対称性・暗黒物質の物理
Project/Area Number |
23KJ0397
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
杉崎 海斗 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | 超対称性 / 暗黒物質 / ヒグシーノ / コライダー実験 / 新粒子探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「超底運動量電子の識別技術の開発と実用化」および「ヒグシーノ生成事象の特徴を包括的に活用した探索感度の最大化」の2つの研究課題から成る。 前者の課題においては、検出器における電子の飛跡やエネルギーの情報を入力とした深層学習識別器を新たに開発することで、これまで見ることができなかった超低運動量の電子を識別する技術を確立することに成功した。加えて、Zボソンが2つの電子と光子に崩壊するような既知の事象を活用することで、新たに開発した識別器の実データにおける識別効率を定量的に評価し、その性能を較正する手法を初めて確立した。これにより本研究で探索するヒグシーノ生成信号事象のアクセプタンスを向上する土台を構築した。また本研究は、高エネルギー加速器実験における超低運動量領域での電子識別を新たに切り拓いたという点で重要な意義を持ち、今後さらなる発展・応用研究が見込まれる。 後者の課題では、ヒグシーノ生成信号事象のトポロジーを駆使し、信号事象への感度を大幅に向上することに成功した。具体的には、ヒグシーノの質量差に大きく依存する事象トポロジーを包括的に学習できる、パラメータ化された深層学習 (parametrized neural network, pNN) を用いた事象選別器を開発した。さらにこの事象選別器と上記の超低運動量電子識別器を用いた事象選別手順およびそれに応じた背景事象推定手法を新たに考案・確立した。本探索手法では、Wボソン生成事象が支配的な背景事象であることに加え、ボソン対生成やZボソン生成事象の寄与もあることを新たに明らかにし、この事実に沿った推定手法を構築した。そしてこの推定手法による系統誤差評価もおおよそ完了させ、これまで未探索であったヒグシーノの質量領域に本研究が感度を持つことを示すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題はすでに大詰めの段階にあり、超低運動量電子識別器の開発に1年近く要し、現時点ではデータ解析の序盤の段階にあるという当初の計画から大きく進展している。本来、超低運動量電子識別器の開発を終えた後にヒグシーノ探索のデータ解析を行い、最終的に探索結果の公開・論文化を行う予定であったが、研究の初期段階において電子識別器の開発の土台構築がかなりできていたため、探索解析に早期着手できたことで想定以上の進捗があった。事前に本研究の実現可能性を入念に調べていたことが功を奏したと考えている。 現時点ではすでにデータ解析の終盤に到達しており、背景事象推定手法構築後の系統誤差評価の段階にある。系統誤差評価に関しても大部分は終えており、残る一部の評価を終えることが現時点の短期の目標である。これから論文投稿に向けて実験グループ内における研究レビューを行っていくが、寄せられた意見に応じて本研究をより洗練されたものにしていく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究において残っている課題は、一部の系統誤差評価、信号領域におけるデータ開示、そして最終的な探索評価である。本研究は信号領域における実データを見ずにデータ解析を行うブラインド解析の手法を採用しており、背景事象推定手法の確立および系統誤差評価を確定した後に、信号領域内のデータを見ることで新物理の有無を評価する。この信号領域内におけるデータ開示を行うにはまだ一部残っている系統誤差評価を終え、実験グループ内で開示の承認を得る必要がある。この承認を得ることを第一の目標として今後は残っている系統誤差評価を綿密に進めていく予定である。具体的には背景事象推定の検証を行う領域において推定結果と実データにやや乖離があるため、これを加味した大きめの系統誤差を現在は考慮しているが、この原因を調べることで系統誤差の過大評価を抑制するつもりである。 信号領域内のデータ開示後には、その結果次第で研究の進め方が大きく変わる。背景事象推定結果と開示データに大きな乖離が見られない場合は探索領域においてヒグシーノが見つからなかったことを意味するので、対応した棄却領域を設定することになる。この場合でも本研究はこれまで未探索であった領域においてヒグシーノを棄却するという大きな物理的意義を持つので、その旨を強調する方向で論文化を進める。他方で開示データが推定結果に対して統計的に有意な超過を持つ場合は新物理発見の可能性があるとともに、自ら構築した解析手法に何かしらのミスがあることも疑う必要がある。解析手法のさらなる検証を綿密に行ってもミスが確認できなかった場合は、ヒグシーノ発見の可能性を考慮した方向性で論文投稿を行う。実際にヒグシーノが発見された場合の物理的なインパクトは計り知れないため、結果の公表は計画よりも遅れる可能性があるが、実験グループ内で議論を重ねた上で慎重に行うつもりである。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況が予定より進んでいたため、論文作成を円滑に行うにあたって必要な物品を前倒し支払い請求して購入する想定であった。しかし iPad を含む電子機器は機能とコストを考慮して購入を次年度に遅らせることにした。このため次年度使用額は引き続き本来購入予定であった電子機器の購入に充てる。また翌年度分として請求した助成金は予定通り使用する。
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Research Products
(5 results)