2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23KJ0460
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮内 理伽 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | 源氏物語 / 呼称 / 准拠論 / 平安朝文学 / 邸第 / 夕霧巻 / 伝領 / 大臣家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『源氏物語』研究において重要な位置を占める「人物呼称論」をモデルに、邸第に関する呼称について総体的・体系的に論じ得る新たな「呼称論」を提案した。
近年、邸第に関する呼称に注目が集まっている。本研究は、複数の邸第の呼称が物語の展開に伴って変化していることに注目し、ある呼称が読者に想起させるイメージを文脈に応じて巧みに操ることで、『源氏物語』という卓越的な長編物語を紡ぎ出す書き手の方法意識について論じた。その成果は、論文「『源氏物語』邸第呼称の方法意識―左・右大臣家と頭中将家を中心に―」(『中古文学』111、2023年5月)としてまとめ、「人物呼称論」をモデルに、邸第呼称について総体的に論じた。 加えて、論文「『源氏物語』夕霧巻における皇統と藤原氏の対立構造―方法としての人物呼称・邸第呼称―」(『東京大学国文学論集』19、2024年3月)では、夕霧巻という挿話的な巻内部の呼称について注目し、夕霧巻そのものの意義を、呼称という視点から論じた。この論文の中では、従来明確に区別されてきた人物呼称と邸第呼称を同時に分析の対象とすることで、人物呼称論と邸第呼称論という二つの呼称論の境界を超えた新たな議論の枠組みを提示している。 両論文は、①邸第呼称の変化を五十四帖にも及ぶ物語全体から総体的に見る、②一つの巻の内部の論理から人物呼称と邸第呼称を読み解く、③従来区別されてきた人物呼称と邸第呼称を同時に論じるという点から、人物呼称論をモデルに、人物呼称と邸第呼称の双方を分析の対象とした新たな「呼称論」を提案するものである。総体的に見る①の試みと一つの巻から見る②の試みは、呼称というものが俯瞰的な視点からも、一つの巻の中の文脈から読解する方法からも、合理的に説明し得るということを示している。両論文は相互補完的に、新たな「呼称論」の構築を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目標は、作品成立期の多様なテクストから組み上げた政治構造・時代意識と『源氏物語』という長編物語を比較・検討することで、①物語世界を構造化し、②『源氏物語』の虚構性と本質について明らかにすることである。本年度は、人物呼称・邸第呼称という、歴史的な実態と密接に関わり合いつつも、物語内部の論理から論じる事象を分析対象とすることで、物語の外側にある文化的背景と物語そのものの文脈の双方の観点から物語世界を論じた。その意味で本年度の研究は、上記の研究の概要を呼称という具体的な分析対象を以て、論じ得たものとして位置付けている。 本研究が提唱した「呼称論」については、長年議論の対象となってきた頭中将の邸第の位置・伝領をめぐる問題に、新しい見解を提示したことからも、その有用性は高いものと考えている。また、従来明確に区別されてきた人物呼称と邸第呼称を同時に論じるという研究手法そのものも、先行研究を引き受けつつ新たな議論のあり方を提示している。両論文が提案した新しい「呼称論」の枠組みが、先行研究に有効的に働きかけていくことを期待している。
着実に研究成果をまとめ査読論文として発表したことから、「2 おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は具体的な分析対象として呼称に注目し、呼称が『源氏物語』という卓越的な長編物語の構造と深く関わっていることを明らかにした。こうした知見は、2023年度以前に行っていた儀礼研究においても得られている。今後は『源氏物語』の構造そのものを研究の対象とすることで、各論を有機的に結びつけ、『源氏物語』の新しい研究手法と読みの開拓に繋げていきたい。 物語世界の分析については、まず第一に男性貴族が記した漢文日記・史書・儀式次第などの歴史史料や、『宇津保物語』『伊勢物語』などの他の物語作品、和歌や女流日記など多様な作品を調査し、『源氏物語』が執筆された当時の政治的状況や時代意識を明らかにする。その上で、『源氏物語』の中に描かれる政治構造と比較・検討し、物語の中の政治世界の虚実について論じていく。 本研究で得られる知見は、先行研究においても主として別々の観点として研究が進めてきた儀礼・呼称・人物造型の諸論を架橋していくものであると考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額として、21円が発生した。この金額は、諸経費の余りとして発生したものであり、次年度の書籍購入費に繰り越して使用したい。 本研究の目的は、作品成立期の多様なテクスト(漢文日記・正史・女流文学・和歌)の検討に基づいて、『源氏物語』が執筆された当時の政治的状況や時代意識を分析し、『源氏物語』の虚構性と本質について捉え直すことである。 研究の特質上、『源氏物語』の先行研究を含む多種多様な資料の収集は必要不可欠であり、書籍購入費や印刷に関する経費を申請する。また、研究成果の発表のため、学会参加費及び論文抜刷作成代を申請する。
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