2023 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム複製におけるヒストンバリアントの動態およびその機能の解明
Project/Area Number |
23KJ0474
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 尚人 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / 細胞周期 / ヒストン修飾 / ヒストンバリアント / 紅藻 / ゲノム複製 |
Outline of Annual Research Achievements |
真核生物に広く保存されたエピゲノム情報である、「H2A.Z」はゲノムの複製開始点制御に関わる。度重なるゲノムの複製にはH2A.Zの局在パターン維持が必要と考えられるが、詳細な分子機構は未知である。この問題に取り組むため原始的な単細胞性の紅藻「シゾン」と、陸上植物である「シロイヌナズナ」を用いた研究を計画しているが、特にシゾンを用いた研究は新規性が高く、新知見が得られる期待が大きいため、優先して研究を進めている。 当初はシゾンを用いた細胞周期におけるH2A.Zの動態の追跡を予定していた。しかしシゾンのH2A.Zのアミノ酸配列は他の生物とは異なり、既存のH2A.Z抗体では検出できない。一方でH2A.Zと相互排他的な局在を示すヒストンH3の4番目のリジンのモノメチル化(H3K4me1)については既存のH3K4me1抗体が有効であった。そこで細胞周期同調系を用いて、H2A.Zの代わりにH3K4me1の動態を、他のエピゲノム情報と合わせてクロマチン免疫沈降法(ChIP-seq)によって解析し、同時にRNAシーケンスにより発現状態の変化も調べた。その結果、特定の遺伝子領域において、細胞周期の進行に伴う遺伝子発現とH3K4me1蓄積量の変化が確認された。H3K4me1もH2A.Zと同様に複製開始点制御に関わると示唆されているヒストン修飾であり、細胞周期に沿ったH3K4me1の変化は、遺伝子発現だけでなく複製開始点の制御や相互排他的な蓄積を示すH2A.Zの増減と関わる可能性がある。この可能性を念頭に置き、2024年度はH3K4me1との関わりにも着目してH2A.Zの解析を行う予定である。具体的には、H3K4のメチル化または脱メチル化に関わる遺伝子の機能欠失変異体を作製したため、H3K4のメチル化状態の変化が細胞周期の進行やH2A.Zの蓄積に与える影響を逆遺伝学的に解析する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画では、「シゾン」を用いた研究と「シロイヌナズナ」を用いた研究を予定しているが、特にシゾンを用いた研究はシロイヌナズナを用いた研究より新規性が高く、新知見が得られる期待が大きいため、シゾンでの研究を優先して進めている。シゾンを用いたエピジェネティクス研究は先行研究が数報しかないこともあり、本研究はシゾンを導入後、環境の整備や予備実験から始めている。そのため結果が得られつつあるものの、まだまとまった成果としては発表できていない。 またH2A.Zと相互排他的な局在を示すH3K4me1に関して、細胞周期の制御に関わることを示唆するデータが得られたことから、解析対象にH3K4のメチル化も加えることとした。逆遺伝学的アプローチとして、H3K4のメチル化に関わる遺伝子の機能欠損変異体の作製を行っていたためやや計画に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在シゾンのH2A.Zを標的とした抗体を作製中である。併せて、シゾンの複製開始点を調べるため、複製開始点の決定に関わるCDC6およびORC1それぞれに対する抗体も作製しており、これらを用いた細胞周期におけるH2A.Zの動態追跡および複製開始点の網羅的同定を2024年度に行うよう計画している。またH3K4のメチル化との関わりについても、H3K4のメチル化に関連する遺伝子の機能欠失変異体を用いて追求する予定である。 また当初の計画ではH2A.Z遺伝子のノックアウト体を用いた解析や、先行研究から見出したH2A遺伝子とH2A.Z遺伝子の発現の「ずれ」の意義を追求する予定であった。H2A.Zノックアウト体に関しては、遺伝子の内部領域に外来配列を挿入することを試みたが、H2A.Z遺伝子を大きく破壊した変異体は作出できず、N末端の数アミノ酸だけを削るH2A.Z変異体だけ作製に成功した。この変異体は大きな形態的異常が見られなかったことから、H2A.Z遺伝子は致死遺伝子であるがN末端領域はその機能に必須ではないことが示唆された。得られた変異体を用いた実験については現在計画中である。また細胞周期同調系で行ったRNAシーケンスの結果をもとにH2A.Z遺伝子の発現推移を調べたが、H2A遺伝子との発現の「ずれ」は見出されなかった。実験条件や解析手法の違いが先行研究との差を生み出したと考えられるが、現在、当初の計画にはなかったH3K4me1に関して興味深い結果が得られており、H3K4me1との関わりからH2A.Zの役割を追求する方が生物学的意義が大きいと推測されるため、上記の結果も踏まえ発現の「ずれ」に関しての研究は優先度を下げることとした。
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Causes of Carryover |
現在、研究に必要な抗体の作製を委託しており、委託は2023年度に行ったが納品・請求が2024年度となるため次年度使用額が生じた。次年度使用額は大半を抗体作製にかかる費用に充てる予定であるが、わずかに残った場合は実験に必要な消耗品の購入費に充てる。 また2024年度分の助成金に関しては主に試薬の購入費や、次世代シーケンサ解析の委託費、論文投稿費および出張旅費として用いる予定である。
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