2023 Fiscal Year Research-status Report
Information thermodynamics of quantum many-body system
Project/Area Number |
23KJ0672
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢田 季寛 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 多体量子相関 / 量子熱力学 / 情報熱力学 / テンソルネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、量子多体系における情報熱力学を構築し、多体の量子相関が熱力学に及ぼす影響を解明することを目指す。現在は、その第一段階として、熱力学的な仕事の取り出し操作を通して多体の量子相関を定量化する指標を提案し、その振る舞いを調査している。この指標は、注目系に対して任意の大域的な操作が可能な場合と局所操作および古典通信(LOCC)のみが可能な場合に、取り出せる仕事量の違いとして定義される。これは系のサイズが十分小さい場合には数値的に評価できるが、量子系の次元は系のサイズに対して指数的に増加するため、大規模な系においては直接評価することが非常に困難であることがわかった。そこで本研究では、この多体量子相関の指標を効率的に評価する手法を提案し、具体例においてその有効性をデモンストレーションした。特に系が行列積状態(MPS)によってよく近似できる場合には、この手法での計算に必要なコストは系のサイズに対して線形の増加のみで済むことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、系から取り出せる熱力学的な仕事と多体の量子相関の関係を明らかにし、さらにこれを大規模な系において計算する手法を提案した。この研究は、来年度以降に量子多体系の熱力学的な振る舞いを調査する上での基盤となる。また、本研究で提案した計算手法は、熱力学に限らない様々な分野で多体量子相関の役割を解明するために有用であり、物性物理や量子情報などの分野に研究を展開することも期待される。 以上の理由から、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、今年度の研究で導入した多体量子相関の指標を用いて、孤立量子系の熱平衡化における多体量子相関の役割を定量的に解明する。これは仕事の取り出しという観点から見ると、十分にスクランブルされた系からLOCCによってどれだけ仕事を取り出せるかという問題と等価である。 また、多体量子相関の指標を用いることで、二体量子相関ではプローブできない新奇な相転移を発見することも目指す。
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Causes of Carryover |
複数の研究を同時進行した影響で論文の執筆に予定より遅れが生じ、本年度中に行うつもりだった国内外の研究機関への訪問・議論が先延ばしになったため。翌年度の使用計画としては、研究機関への訪問のための旅費や学会への参加費・旅費として用いる予定である。
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Research Products
(4 results)