2023 Fiscal Year Research-status Report
ペロブスカイト酸化物を用いた横型ナノスピントロニクスデバイスの作製と検証
Project/Area Number |
23KJ0685
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
遠藤 達朗 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | スピントロニクス / ペロブスカイト酸化物 / 強磁性体 / 微細加工 / 金属絶縁体転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
最初の成果は,本研究の対象であるペロブスカイト型酸化物の一種で,強磁性体金属でもある(La,Sr)MnO3(LSMO)薄膜を微細加工するための,リソグラフィ技術が確立されたことである.具体的には,数十ナノメートル幅の細線構造や,およそ300 nm間隔で二本の微細チャネルを配置した構造など,様々な構造を持つ微細リソグラフィパターンが実現できた.本研究はデバイス構造を作製するために,Arイオンの照射によってLSMO薄膜の微細領域を金属から絶縁体に転移させる手法をとっている.この手法を多様なリソグラフィパターンに適用すれば,バリスティックな電子伝導のほか,クーロンブロッケードのような量子化された伝導現象など多くの現象を,酸化物上で研究できる可能性がある.そのためには微細リソグラフィ技術の確立が必要である.本成果は,研究室レベルで可能な最も微細なリソグラフィパターンを作製できるようになったことに意義がある. 次の成果は,ゲート変調を見据えた酸化物ヘテロ構造の結晶成長が可能になったことである.具体的には,様々な組成を持つペロブスカイト型酸化物を,原子層一層ごとに結晶成長できる分子線エピタキシー (MBE)を使用して,LSMOを様々なペロブスカイト酸化物と組み合わせて高品質に結晶成長を行うことが可能になった.本成果は,LSMOからなるチャネル層とゲート絶縁膜を真空中で一貫して結晶成長し,電界効果トランジスタを構成する構造が作製できるようになったことに意義がある. そして,三番目の成果は,強磁性酸化物の金属絶縁体転移プロセスを磁性の測定から確認できたことである.具体的には,LSMOの強磁性を抑制することがイオン照射によるプロセス前後のSQUID測定によって確認された.この成果の意義や重要性は,LSMOの金属絶縁体転移が電気伝導特性だけでなく,磁性の測定によっても裏付けられたことにある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在,本研究で用いている微細リソグラフィは,技術的な成熟の域に達したといえる.また,高品質の酸化物薄膜の作製も,本グループで確立された方法を用いて実現している.MBEによって得られた強磁性体薄膜の評価にあたっては,X線回析による構造評価,磁気円二色性を用いた強磁性の評価,放射光施設でのX線MCDによるMnカチオンの強磁性の分析,透過型電子顕微鏡による構造解析など,多角的な手法を採る体制が敷けている.なお,これらの評価は外部の研究室及び研究機関との連携によって進められている. 一方で,横型構造の伝導特性を電界で制御する実験には困難が伴っている.電気伝導が可能な酸化物の特性をゲート電界で制御する方法は多く報告されているが,特にイオン液体を用いた方法は,固体と液体の界面に生じる電気双極子によって大きな電界を実現できるため,電気二重層トランジスタ(EDLT)と命名され,多くの先行研究が存在する.これらの背景を踏まえ,微細加工プロセスによって作製されたデバイスにイオン液体を滴下することでEDLTを作製し,ゲート電界による伝導特性の変調を試みたが,伝導特性の変調を引き起こすことはできなかった.その理由として,横型構造を作成する際に使用される,金属酸化物をArイオン照射によって絶縁転移を誘起し,横型構造を作製するプロセスの最適化が不十分であることや,EDLTを用いたゲート電界印加によって生じた酸素欠損によるデバイスの特性の劣化が考えられる. そのほか,金属酸化物と強磁性金属酸化物に挟まれた絶縁体酸化物薄膜を通した伝導が共鳴トンネル伝導のような特性を示すことを発見した.このふるまいについてはまだ未解明な部分が多いため,膜厚依存性など,詳細な調査が求められる.
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Strategy for Future Research Activity |
プロセス最適化によるゲート電界による伝導特性の変調,トンネル構造で見られた量子伝導特性についての調査の二点を方針とする. プロセスの最適化は,LSMOの金属絶縁体転移の最適化と,EDLT以外のゲート印加手法の探求の両面から研究の推進を試みる.金属絶縁体転移プロセスの最適化は,LSMOの金属絶縁体転移が電気伝導特性のみならず磁気特性の相転移も伴うことを利用し,電気伝導特性と磁気特性の測定を組み合わせて行う.ゲート印加手法の探求は,微細加工技術,積層技術を用いて,サイドゲートやバックゲートなど,複数の方式を試行する.サイドゲート構造は,すでに導電性探針つきの原子間力顕微鏡で二次元電子ガスにパターンを施しゲート制御をおこなった報告[1]等があり,同様の構造をリソグラフィで実現することを検討している.また,バックゲート構造は,高温超電導体のゲート制御等で行われた,SrTiO3をゲート絶縁膜に利用する方法[2]などを検討している. トンネル構造の伝導特性については,すでに観測されたものの解析に加え,原子層一層単位での結晶成長技術を用いた構造を検討している.ペロブスカイト酸化物のトンネル素子でトンネル共鳴らしい伝導現象を観測した例として,BaTiO3層の強誘電ドメイン境界に由来するとされる現象[3]が挙げられる.これに基づき酸化物の組成を層ごとに制御可能な分子線エピタキシーを用いて,絶縁層の一部に任意膜厚の金属層を埋め込むことを検討している. [1]C. Cen et al., Science 323, 1026 (2009). [2] J. Mannhart et al., Z. Physik B - Condensed Matter. 83, 307 (1991). [3] G. S. Santolino et al., Nat. Nanotech. 12, 655 (2017).
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