2023 Fiscal Year Research-status Report
抗生物質の治療作用向上に向けた細菌標的型高分子ナノドラッグの開発
Project/Area Number |
23KJ0704
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
増田 圭汰 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 細菌感染症 / 抗生物質 / ドラッグデリバリーシステム / 高分子ミセル |
Outline of Annual Research Achievements |
私の研究では、細菌感染症の根絶に向けて、抗生物質をより効率的に作用させるための薬剤送達ナノキャリアの開発を目的としています。 近年薬剤耐性菌の出現が問題となっており、過剰、あるいは新規の薬剤投与は耐性菌の増加に寄与する恐れがあるため、根本的な解決策となりえません。そこで本研究では、薬剤送達システムの技術を用いて薬剤の体内動態を制御し、問題の解決を図ります。 本年は、細菌に対する選択的な薬剤送達に向け、細菌標的リガンド(BBM)の細菌認識能を化学的、並びに生物学的な観点から評価しました。具体的には、BBMが細菌由来の物質と共有結合を形成することを、核磁気共鳴法及び赤外分光法により確認しました。また、蛍光標識したBBM分子が実際の細菌と結合することを蛍光顕微鏡により確認しました。加えて、BBMによる抗生物質の作用向上を検証するために、薬剤にBBMを結合させた分子を用いて抗菌試験を行いました。薬剤と細菌を単に共培養する条件では、BBMを結合させた薬剤と未修飾の薬剤の間では薬効に差がなかった一方、共培養後に細菌に吸着していない遊離の薬剤を遠心分離によって除去した条件では、BBM修飾薬剤は未修飾薬剤と比較して薬効が優位に向上しました。本結果より、BBMは薬剤を細菌に対して送達することが可能であり、また血流のような動的環境においても薬剤を有効に作用させることが可能でありことを示唆しています。 近年新薬の開発は停滞しており、また新たな薬剤を使用することは新たな薬剤耐性の出現につながることから、これまでとは異なる抗菌戦略が必要とされています。本研究の新規制は薬剤そのものではなく、その送達手段であるため、新規薬剤耐性に寄与しないことに加え、既存の薬剤をより効果的に使用することが可能となるため、新薬の開発よりも極めて速く、また安く新規抗菌戦略を実現することが期待されます。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在の進捗状況は、おおむね順調に進展しております。 当初の予定では、1年目に細菌認識リガンド(BBM)の細菌認識能の評価および薬剤封入ミセルの調製を行い、2年目に実際の細菌に対する薬剤封入ミセルの薬効評価、3年目には細菌感染マウスを用いた治療作用の評価を行う予定でした。 本年までに、BBMの細菌認識能を化学的、生物学的に検証しました。これに加え、ミセルの調製に先立ち、薬剤にBBMを直接結合させた際の薬効の評価、並びにBBM結合薬剤の哺乳類細胞に対する毒性の評価を行いました。本実験は当初予定しておりませんでしたが、特許の出願の観点から本実験結果の必要性が生じたため実施しました。本実験は現在も継続中であり、2024年5月に完了見込みです。 一方、本年度に実施予定であった薬剤封入ミセルの調製に関して、キャリアを形成するポリマーの骨格となる分子の合成までは完了しており、骨格分子の薬剤、及びBBM修飾を2年目に行う予定です。 以上より、当初の予定と比較すると進捗に遅れはあるものの、一方で当初予定していなかった実験の結果が得られており、全体として本研究はおおむね順調に進展していると言えます。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、2年目となる2024年度には、薬剤-BBM結合分子を用いた薬効の評価を完了し、その後BBMによる細菌標的化に関して特許の出願並びに学術論文の出版を予定しております。これにより、BBMを用いた細菌標的化の学術的基盤を確立し、その後の研究は他研究機関と共同して推進していく予定です。 具体的には、薬剤を封入したナノドラッグの薬効を、所属研究室では扱うことのできない毒性の高い細菌種を用いて評価し、より臨床での需要に近い条件で試験を行います。また、ミセルのマクロファージ存在下における殺菌効率およびマクロファージによる抗原提示効率を評価し、本システムが実際に体内において有効に作用する根拠を明確とします。 最終年となる3年目には、感染症モデルマウスを扱うことのできる機関との共同研究により、本システムの動物体内にける動態を検証します。また同年には、これまでのin vitro, およびin vivoの実験結果をまとめて学術論文に投稿する予定です。
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Causes of Carryover |
本年度に、毒性の高い細菌株に対する、薬剤-細菌標的リガンド複合体による抗菌活性試験を委託することを予定しておりましたが、本実験に先立ち条件の最適化が必要となり、本試験の委託を本年度中に行うことができなかったため、次年度使用額が発生しました。 本試験に関する最適化の終了後、次年度には外部機関に試験を委託する予定です。
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[Journal Article] Multi-Armed Star-Shaped Block Copolymers of Poly(ethylene glycol)-Poly(furfuryl glycidol) as Long Circulating Nanocarriers2023
Author(s)
Nakagawa, Y., Ushidome, K., Masuda, K., Igarashi, K., Matsumoto, Y., Yamasoba, T., Anraku, Y., Takai, M. and Cabral, H
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Journal Title
Polymers
Volume: 15(12)
Pages: 2626,2638
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Block catiomers with flanking hydrolyzable tyrosinate groups enhance in vivo mRNA delivery via π-π stacking-assisted micellar assembly2023
Author(s)
Yang, W., Miyazaki, T., Nakagawa, Y., Boonstra, E., Masuda, K., Nakashima, Y., Chen, P., Mixich, L., Barthelmes, K., Matsumoto, A., Mi, P., Uchida, S. & Cabral, H
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Journal Title
Science and Technology of Advanced Materials
Volume: 24(1)
Pages: 1,13
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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