2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23KJ0747
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
寺澤 凌 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 宇宙の曲率 / 大規模構造 / 弱い重力レンズ / すばるHSC |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の本年度の研究実績は、以下の二つにまとめられる。 (A) 曲率を持つ宇宙のパワースペクトルの理論モデルの構築 宇宙の空間曲率を変化させた時のハローパワースペクトルの変化(応答)が現在の宇宙の膨張速度を表すハッブルパラメタへのハローパワースペクトルの応答でよく近似できることをN体シミュレーションを用いて示した。このことを用いると曲率を持つ宇宙のパワースペクトルを平坦な宇宙におけるパワースペクトルとそのハッブルパラメタへの応答で計算することができる。これにより、平坦な宇宙モデルで有効な、精密なエミュレータによるハローパワースペクトルの予言を曲率を持つ宇宙の場合に拡張することが可能となった。 (B) すばるHSCの弱い重力レンズデータを使った宇宙論解析 弱重力レンズ効果の観測を用いて宇宙論パラメタを制限する際に問題となるバリオン物理の不定性について、すばるHyper Suprime-Cam(HSC)3年度データを小スケールまで用いて詳細な解析を行った。特に、バリオン効果をモデルしないダークマターのみのモデルとデータの整合性を調べることで、バリオン物理の不定性に影響されずに極端に強いバリオン効果を棄却する手法を提案した。この手法を用いて、共同研究者として加わったHSC3年度弱重力レンズデータの宇宙論解析がバリオン効果に対してロバストであることを示した。この研究でバリオン効果では宇宙マイクロ波背景放射との間のズレ(S8テンション)を解決できないことを示したことで、有限の曲率を持つモデルをはじめとした、標準宇宙モデルの拡張の必要性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
曲率を持つ宇宙のハローパワースペクトルの理論モデルについて、本研究のパワースペクトルの応答を用いる手法により平坦な宇宙モデルで有効な、既存の精密なエミュレータによるハローパワースペクトルの予言を曲率を持つ宇宙の場合に拡張することが可能となった。また、他グループが曲率を持つ宇宙の物質パワースペクトルのエミュレータを開発した。これらにより、本年度中に行う予定であった曲率を持つ宇宙のパワースペクトルの理論モデル構築は完了したといえる。同じく本年度中に行う予定であったすばるPFSの銀河の選択基準の決定に関しては、PFSサーベイの開始が当初の計画から遅れたため、選択基準決定に必要な観測データが得られていない。選択基準の評価を含め、PFSサーベイには来年度以降も関わっていくが、本研究課題終了までにPFSデータが得られない見込みのため、既に公開されているSDSSの銀河分光データや、CMB、CMBレンジングのデータを用いることを検討する。来年度行う予定であった、HSCデータの宇宙論解析にも着手し、弱重力レンズデータの宇宙論解析がバリオン効果に対してロバストであることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
バリオン音響振動やCMB、CMBレンジングデータとすばるHSC3年度弱重力レンズデータを組み合わせた宇宙論解析を行い、曲率を含む宇宙論パラメタを制限することを目指す。MCMC法による宇宙論解析を高速化するため、CMB、CMBレンジングパワースペクトルの理論モデルのエミュレータの構築に取り組む。また、MCMC法よりも効率的なサンプリング法である、ハミルトニアンモンテカルロ法(HMC) による宇宙論解析の実装にも取り組む。
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Causes of Carryover |
購入を予定していたストレージ等の物品が今年度時点では必要にならなかったため。また、海外出張も一度の研究会参加にとどまったため旅費も予定より使用額が少なかった。今年度はすばるHSCの国際共同研究に参加したばかりで共同研究のため海外出張をする機会がなかったが、次年度は共同研究のため米国出張を行う予定である。また、次年度は既に複数の国外で行われる研究会に参加することが決まっている。次年度使用額はこれらの旅費として使用する計画である。
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