2023 Fiscal Year Research-status Report
インド仏教における「菩提」概念の思想史研究 -パーリ注釈文献に基づく比較分析-
Project/Area Number |
23KJ0763
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 有佑 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | インド仏教 / 部派仏教 / 大乗仏教 / 菩提 / 伝承史 / 菩提分法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はインド仏教における「菩提」、すなわち「悟り」という概念に注目し、従来の研究の多くが後世成立の文献から遡及的に議論を組み立ててきたことを踏まえて、実証性の観点から下限年代に依拠した上で、その伝承史を描くことを目的としている。2023年度は「菩提分法」、すなわち「悟りを補助する法」という「菩提」が含まれる概念に焦点を当てて研究を遂行した。 「菩提分法」に関する伝承は、現存文献で遡りうる年代の最も初期に位置する紀元後二世紀頃から複数が並存する状況であったが、そのうち、七セットの実践徳目ーー四念処、四正勤、四神足、五根、五力、七覚支、八聖道ーーに菩提分(悟りを補助する)という属性が付加されて概念化した「三十七菩提分法」に関するパーリ文献(大寺派、いわゆる上座部が伝える資料)の伝承と上述の七セットに別の実践徳目ーー四禅ーーが加わるも概念化されなかった八セットの伝承の二つを調査した。これにより、三十七菩提分法は、遅くともパーリ文献中の注釈文献が編纂された頃(五世紀前半)には仏陀の教え(法)を象徴するものとして理解されるようになっていたことが判明した。また、八セットの伝承はこれまでその全体像が描かれることがなかったが、今回の研究で新たに「大乗」経典にも見出されることを発見し、その全体像を提示した。さらに、今回新たに指摘した文献での現れ方がこれまで想定されていた伝承モデルーー「部派」ごと、あるいは「地域」ごとーーでは容易に説明し得ないものであることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、「菩提分法」に関わる伝承のうち、七セットの実践徳目ーー四念処、四正勤、四神足、五根、五力、七覚支、八聖道ーーに菩提分(悟りを補助する)という属性が付加されて概念化した三十七菩提分法に関するパーリ文献の伝承と上述の七セットに別の実践徳目ーー四禅ーーが加わるも概念化されなかった八セットの伝承の二つに焦点を当てて研究を行った。それぞれの成果は順に、「パーリ注釈文献における菩提分法の「法」」(査読誌『インド哲学仏教学研究』32, forthcoming)と‘A Dharmaguptaka Trait in the Mahayana Sutras?ーーTwo examples of the Eight Sets of Forty-One Dharmas’(査読誌Journal of Indian and Buddhist Studies, vol. 72, pp. 1028-1031, 2024)として公表される。当初の予定では、「菩提分法」に関する研究に続けてそれぞれ同様に「菩提」という単語を含む「菩薩」、「三菩提」に順に移る手筈であったが、「菩提分法」の調査の進展に伴い、これまで考えられてきたような、「菩提分法」は部派仏教の重要な実践道である、という見解に誤りがあることが判明し、同時に、いわゆる「大乗」文献においても特異な現れ方をしていることが判明したため、さらに深く考察する余地があると判断し、引き続き「菩提分法」に焦点を当てた研究を継続する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで十分に検討されてこなかった「大乗」文献における「菩提分法」の用例を調査し、下限年代に依拠しつつパーリ文献やその他の伝承と比較研究していく。
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Causes of Carryover |
日本では扱われていない写本を研究するべく海外出張を予定していたが、次年度にその専門家が日本を訪問し、並行して行われる当該写本に関する研究会に参加することになり、それを踏まえて海外出張を計画し直すため。出張費用や、写本研究に必要な物品費等に当てる予定である。
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