2023 Fiscal Year Research-status Report
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23KJ0848
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
宮坂 朋彦 東京学芸大学, 連合学校教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2025-03-31
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Keywords | エデュセミオティクス(edusemiotics) / 学習(learning) / 新パース主義(neo Peircean) / 真理の収束説 / 経験(experience) / プラグマティズムの格率 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度前半は、研究テーマのうちA)新パース主義の妥当性と課題を、パースにおける「プラグマティズムの格率」の初期から後期への変遷と照合して検証することで、探究論としての「パース主義」を明示化する、B)カテゴリー論に基づいて、パースの「経験」(experience)の構想を解明するという、二つを並行して進めた。前者は具体的な論文成果になっていないが、パースにおける真理の収束説と実在論について、初期著作と後期著作にわけて読解し、パースの同時代人であるジョサイア・ロイスとの論争に解明の鍵があることが明らかとなった。 2023年度後半は、一部論文の不受理という結果を受け、パースに関する教育学的先行研究の再整理に力点を置いた。「パースと教育」論は、インナ・セメツキー(Inna Semetsky)およびイギリス出身の教育哲学者アンドリュー・ステーブルス(Andrew Stables)を中心として、教育学者と記号論者が混在する研究動向へと統合されつつある。記号論者のマルセル・ダネジ(Marcel Danesi)は、この動向をエデュセミオティクス(Edusemiotics)と名付けた(Danesi 2010)。マイケル・A・ピーターズ(Michael A. Peters)とガート・ビースタ(Gert Biesta)によれば、記号論は「教育哲学と教育理論の基礎的概念、特に学習と経験へすぐに適用できる点において、明確な主張を持っている」(Peters & Biesta 2015:x)。ここから、従来研究対象としていた真理と経験から、新たに「学習」へ視点を移動し、パース主義をプラグマティズムだけでなく教育学の立場から再検討した。 年度全体を通して、研究費の使用が可能となったことにより、国外の学術誌・絶版書籍などこれまで入手困難であった関連資料の収集を行い、読解および整理(一部翻訳)作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
後期パースの実在論の焦点となる「経験」概念を、カテゴリー論に基づいて描出する作業を前年、令和4年度に終えて教育哲学会にて発表し、ピアレビューにて一定の評価を受けたが、当該内容に関する論文投稿を行ったところ、再審査ののち不受理となった。 理由として、パースの経験概念に関する検討そのものは十分であるが、その教育哲学における意義や射程が間接的なものにとどまることを指摘された。年度前半はこの論文の再投稿に向け何度か修正を行っていたが、その過程のなかで、現在の研究全体を見直す必要が生じた。特にこの論文は、本研究全体において重要な位置付けにあったため、本研究で扱う概念として、「経験」に加え「学習」が浮上することとなった。 そのため2023年度後半は「パースと教育」をめぐる研究状況を、エデュセミオティクス(edusemiotics)と呼ばれる動向に注視して整理し、本研究の教育哲学的射程を明確化するため、「経験」概念だけでなく「学習」概念へ検討対象を拡張した。そのため、全体として検討対象となる概念が増加し、研究進捗が遅れることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、新たに生じたエデュセミオティクスと「学習」概念についての論文を投稿し、教育哲学会での掲載を目指す。後期パースのカテゴリー論および宇宙論から日本の「学び」論とも、従来的な心理主義的「学習」論とも異なる「学習」の形而上学的構想を看取することで、その教育哲学的射程を示すことが目的である。 第二に、エデュセミオティクスが国内の教育学界ではほとんど知られていないことを踏まえ、パースを中心とするエデュセミオティクスの紹介とその課題に関する考察を日本教育学会への投稿を目指して論文化する。 第三に、昨年度投稿の結果不受理となった経験に関する研究と、真理と実在に関する研究を再整理し、博士論文の後半部分に位置付けるものとして執筆する。これらの投稿論文化については現時点では検討中であるが、日本デューイ学会あるいは教育哲学会での発表を念頭に置く。年度後半は上記の成果を統合し、「探究」と「学習」を関連づける形で博士論文の執筆を行う。
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