2023 Fiscal Year Research-status Report
新規木質バイオマス燃料の時間変化を考慮したライフサイクル温室効果ガス収支
Project/Area Number |
23KJ0871
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
佐藤 惟生 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | ライフサイクルアセスメント / 木質バイオマス / バイオマス由来の二酸化炭素収支分析 / 地球温暖化緩和 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度より開始した、スギ・ヒノキ人工林をユーカリ林へと転換することの地球温暖化緩和策としての有効性を検証する研究については、当該年度をもって一通りの研究成果がまとまり、国際誌への投稿に向けた原稿が完成した。今後は、共同研究者の校正を経て、英文校正に提出したのちRenewable and Sustainable Energy Reviewsに投稿する予定である。 また、パームバイオマスの有効活用による温室効果ガス排出削減を評価する研究については、第33回熱帯生態学会において口頭発表を行い、優秀発表賞を獲得した。本研究についても、国際誌向けの原稿が完成している段階であるため、インドネシアガジャマダ大学の共同研究者の校正を経たのち、GCB bioenergyへ投稿することを予定している。 これらの研究では、バイオマスに由来する二酸化炭素の排出を、今世紀中の地球温暖化緩和を考えるうえでどのように考慮するかが重要な論点となった。 今年度は、上記の議論を踏まえ、国内の木質バイオマス活用について新たな研究を開始した。この研究では、スギ・ヒノキ残渣を燃料ではなく、化学品であるレブリン酸の原料として活用する場合の、時間経過に伴う温室効果ガス収支を明らかにした。本研究では、工場内での資源投入を、資源のリサイクルや固形残渣の活用で補填する工業プロセスを設計し、バイオマス由来の二酸化炭素の収支を考慮したレブリン酸製造に伴う温室効果ガス収支を解明した。本研究は、日本木材学会第74回大会において口頭発表し、優秀学生口頭発表賞を受賞した。また、本研究についても、国際誌向けの原稿を共同研究者と校正する段階に入り、今年度中にGreen Chemistryに投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ユーカリを対象とした、新規木質バイオマスの研究については、一通りの成果がまとまり、国際誌への投稿を行えばよい状況にある。しかし、パームバイオマスの研究については、当初予定していたパーム幹の木材利用について、インドネシア国内で検討していた調査対象企業の事業に遅れが発生しており、今年度中の事業開始が困難となった。したがって、対象地を新たに選定し、研究の枠組みを組み立てなおす段階にある。現段階で、SATREPSにおいてパーム幹を木材として利用するプロセスを開発した国際農林水産業研究センターの研究チームに問い合わせ、対象地をマレーシアに選定し研究を継続することを協議中である。 また、近年、木質バイオマスのみならず、木材の活用自体が地球温暖化緩和を目指す上での障害となるという議論が生じてきている。したがって、新規木質バイオマス利用が地球温暖化緩和に資するものとなるかを評価するためには、木質バイオマス利用の時間経過に伴う温室効果ガス収支の解明にのみ焦点を当てるのではなく、木質資源利用の全体像を把握した上で、得られたGHG収支の結果が大気中の二酸化炭素濃度にどのように影響を及ぼすかを、分析する必要がある。 以上のように、一定の成果は出ているものの、本研究課題に対する十分な成果を得るためには、当初予定したより多くの検討事項が生じてきているため、研究の進捗を「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの成果で3つの国際誌を執筆している段階であるため、今年度中にすべてを英文校正に出し、その後の投稿までを完了させることを予定している。 研究については、これまでの研究で、パームバイオマスを日本国内でのバイオマス発電に用いることの、温室効果ガス排出量評価の研究において、土地利用変化やバイオマスに由来する二酸化炭素の再吸収を考慮しない場合のリスクを示した。また、スギ・ヒノキ人工林を早生樹林に転換する木質バイオマス燃料の生産の時間経過に伴う、温室効果ガス収支分析や、スギバイオマスから化学品製造する際のバイオ由来の二酸化炭素収支の分析を実施した。これらの研究においては、木質バイオマスに由来する二酸化炭素の収支は、今世紀の前半では温室効果ガスの排出に偏るが、今世紀後半にかけて温室効果ガスの排出削減に寄与することが明らかとしてきた。しかし、これらの研究において、再造林後の森林の二酸化炭素の吸収量は、森林の成長モデルを用いて予測しており、再造林後の実際の吸収量が数理モデルとは異なる場合、結果が大きく変わることが示された。 これらの知見を得て、木質資源利用による今世紀中の地球温暖化への影響を適切に評価する上で、気候変動に伴う森林管理のリスクを考慮したうえでの分析が重要であるという考えに至った。したがって、今年度は、木質バイオマスの生産や資源の調達可能性においても焦点を当てた研究を実施すると同時に、アムステルダム自由大学のDr. Sander Veraverbekeともに、森林火災による今世紀中の木質資源利用のリスク分析を実施することを予定している。
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