2023 Fiscal Year Research-status Report
細胞外マトリクス複合体が胎仔期の大脳皮質形成を制御する分子機構の解明
Project/Area Number |
23KJ0872
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
武渕 明裕夢 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 大脳皮質発生 / 細胞外マトリクス / ヒアルロン酸 / ニューロカン / テネイシンC / コンドロイチン硫酸プロテオグリカン / 放射状移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
記憶・認知・思考など脳の高次機能を司る大脳皮質は、機能や形態が異なる6つの神経細胞層から構成されている。この大脳皮質に存在する神経細胞は胎仔期に配置・生産が完了し、それ以降、移動・増幅が起きない。そのため、胎仔期の大脳皮質形成は極めて重要な過程であり、異常が生じると精神疾患を引き起こすと考えられている。胎仔期の大脳皮質は脳表面側から辺縁帯、皮質板、中間帯、脳室帯の領域に別れており、脳室帯に存在する神経幹細胞から神経細胞が生まれ、皮質板の最上部へ放射状に移動する。この神経細胞の移動が繰り返され、皮質板に厚みが増し大脳皮質になる。大脳皮質形成に重要な因子は転写因子、分泌性タンパク質、細胞接着因子、など先行研究より複数見つかっている。 脳の複雑な三次元立体構造は細胞外マトリクスにより構成される。また、大脳皮質形成期に高発現する細胞外マトリクス分子も存在することから、細胞外マトリクスにより形成される微小環境も大脳皮質形成に重要な因子であると考えた。所属研究室では中間帯に細胞外マトリクスの主成分であるヒアルロン酸が豊富に存在することを発見した。そこで、本研究ではこのヒアルロン酸と相互作用し複合体を形成する分子の探索を行なったところ、ヒアルロン酸にコンドロイチン硫酸プロテオグリカンであるニューロカンが結合し、さらにニューロカンにはテネイシン-Cが結合することで三者複合体を形成していることが示唆された。 胎仔期の脳でも三者複合体の形成を確かめるため、足場となっているヒアルロン酸を消化したところニューロカン、テネイシン-Cのタンパク質量が大きく低下したことから、複合体の形成が確認できた。また、ニューロカン、テネイシン-C欠損のマウスで神経細胞移動に異常が見られたことから、三者複合体は大脳皮質形成に重要な微小環境を形成していることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三者複合体の解析は、野生型とニューロカン、テネイシン-Cのダブルノックアウトマウスを用いることで行なってきた。それぞれの分子の機能を調べるため、ニューロカン、テネイシン-Cのシングルノックアウトマウスを作成し、解析を行なった。テネイシン-Cノックアウトマウスでは神経細胞移動に遅れが見られなかったものの、ニューロカンノックアウトマウスでは有意な移動の遅れが見られた。また、ニューロカン欠損によりテネイシン-Cの局在に異常が生じていたことからも三者複合体の形成が確かめられた。これらダブルノックアウトマウスとシングルノックアウトマウスの解析データをまとめ、学術誌eLifeに掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞外マトリクス複合体は胎仔期だけでなく成体の脳でも存在する。もっとも研究が進んでいる成体脳の細胞外マトリクス複合体はペリニューロナルネットである。ペリニュートナルネットとは一部の神経細胞の細胞体と近位の突起を覆う網目状の構造であり、記憶や学習に大きく関与している。構成分子は胎仔期の三者複合体と似ており、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンのアグリカン、テネイシン-Rである。先行研究では、酵素消化によりペリニューロナルネットを無くすロスオブファンクション実験系により機能を明らかにしてきたが、この方法だけでは限界がある。そこで我々はペリニューロナルネットのゲインオブファンクション実験系の確立を目指し、現在研究を行なっている。
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Causes of Carryover |
ぴったりの金額に調整できなかったため。
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