2023 Fiscal Year Research-status Report
住民主導型交通の成立条件:進化生物学と都市・交通計画学の融合
Project/Area Number |
23KJ0882
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
野口 寛貴 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 協力行動 / 生物進化 / 交流デザイン / 社会ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、住民主体で交通サービスを運営する地域に対してヒアリング調査を行った。ヒアリング調査の質問項目は、生物進化のメカニズム、とりわけ集団遺伝学と遺伝子-文化共進化から着想を得て設定した。前者は交通サービスが地域に普及していく過程についての整理指針、後者は交通サービスが地域に与える影響についての整理指針とした。前者では、突然変異によって誕生した遺伝子が集団内に広がっていく過程を交通サービスの普及過程と関連付けた。調査の結果、集団内で顔が広い人物、つまりハブとなっている人物の理解を得ることが交通サービスの早期普及に効果的であることが示唆された。このような人物の存在により、供給側(運営スタッフ)にとってはスタッフ同士の交流活発化、利用者側にとっては利用に対する心理的抵抗の低減が期待できる。これは、生物進化において、協力戦略が(協力戦略に対して不利な)非協力戦略に対する進化に必要な正の同類性メカニズムと似た構造をもつ。政策デザインに対しては、交通サービスに携わる人が望む交流場のデザイン設計の重要性が示唆される。後者では、遺伝子進化と周辺環境の共進化を、交通サービスの運営過程と社会ネットワークの変化と関連付けた。調査の結果、交通サービスをめぐる交流は、運営参加や利用の誘因になっており、その結果として、社会ネットワークの強化(新たな関係性創出や既存関係性の深度化)が推進されるうることがわかった。また、人々の交流を規定するうえで、社会ネットワークのサイズも重要であることも示唆された。例えば、非協力的な行動をとる住民が存在した場合、その情報はネットワークサイズが小さい場合は全住民の共有情報となりうるが、サイズが大きい場合共有情報にならない。共有情報にならなければ、非協力行動をとる住民に対する処罰の実効性が低くなってしまう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画は住民が主体となって交通サービスを運営する地域へのヒアリング調査である。実際に、複数地域へのヒアリング調査を対面形式で実施することができた。さらに、本研究が対象とする交通サービスを含む住民活動全般のマネジメントを研究する広島大学のチームとの意見交換を実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は今年度のヒアリング調査結果で得た知見の妥当性について、数理モデルを用いて探索する。具体的には、交通サービスの普及過程を進化動学として捉え、進化ゲーム理論に基づく数理モデルを構築する。構築したモデルに基づくエージェントベースシミュレーションより、交通サービスの成立可能な条件を探索的に特定する。
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Research Products
(1 results)