2023 Fiscal Year Research-status Report
初期宇宙の密度揺らぎを用いた標準模型を超える物理の検出に関する包括的理論研究
Project/Area Number |
23KJ0938
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐野 文哉 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | 理論物理学 / 宇宙論 / 素粒子論 / 初期宇宙 / インフレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度には,宇宙初期の急激な膨張期であるインフレーション期において発生した宇宙論的ゆらぎの非ガウス性の詳細な計算方法を会得,発展させるために,近年提案された計算手法である「cosmological bootstrap」を用いた研究を行いました.宇宙論的ゆらぎの非ガウス性には初期宇宙の重力のゆらぎが物質場とどのように相互作用していたかを定量化する指標であり,これを理解することは宇宙の初期状態に関する深い洞察を得て,「標準模型を超える物理」を探索するために不可欠です. Cosmological bootstrap法は,相関関数を対称性から決定するbootstrap法を宇宙論に適用したものであり,インフレーション中の宇宙論的ゆらぎの非ガウス性の強さとそのスペクトル形状を厳密に計算する際に用いられています.これによりインフレーションが生成する密度ゆらぎに現れる未知の粒子の痕跡を精密に計算することが可能になり,得られた結果は,従来の計算手法では詳細が不明であった特徴を定量的にとらえることに成功しました. 具体的には,これまで近似的に無視されていたインフレーションのバックグラウンドの時間依存性を取り入れたセッティングでの相関関数をbootstrap法で導出し,その効果は無視できないサイズであり,さらに粒子の相互作用を調べる際に重要になることを明らかにしました.このような計算手法の導入により,インフレーション理論の理解を一層深めることができ,宇宙の初期条件に関する新たな理論的枠組みを提供することに成功したといえます. この研究成果は国内外の多くの学会で発表され,宇宙論の分野において議論を促進しました.これらの議論は,理論物理学だけでなく,観測宇宙論にも影響を与える学術的貢献であると認識しております.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,1年目を計算手法の修得と基本的な理論研究に集中する期間と定めていました.具体的には,cosmological bootstrapという新しい計算手法を習得し.インフレーション期における非ガウス性の理論的背景とその計算プロセスについての深い理解を目指しました.この手法は,宇宙の初期ゆらぎを詳細に分析するためのものであり,計算の精度を飛躍的に向上させることが期待されています.1年目の終わりにはこの手法を用いた研究成果を国際誌に投稿することができ,その効果と正確性を確認しました. さらに,並行して,2年目以降への準備を進めました.2年目以降の計画では非ガウス性に関する現象論的なテーマを研究することを目指しています.まず,いまだに詳細な研究が行われていないインフレーション理論の非ガウス性におけるフェルミオンの影響を明らかにすることを目指し,関連する理論の精査と実験計画の立案を進めました.方向性の候補を絞り込む段階まで進んでおり,順調に2年目以降に具体的な研究成果を生み出すためのステップを踏んでいます.また,2つ目として,量子重力理論へのボトムアップなアプローチとして重力の量子性を非ガウス性を用いて調べるという方針を設定し,学会等において関連分野の研究者との人脈形成にも注力しました.この人脈は,共同研究や情報交換の場を設けることで研究の質を向上させるとともに,学際的な共同研究を開始することを目指しています.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方策としては,様々な分野の研究者と協力しながら,観測や現実の宇宙を視野に入れた現象論的なセッティングによる研究を行うことを目指します. まず1つ目の研究の方針として,素粒子論における重要な要素であり身の回りの物質を構成する粒子であるフェルミオン粒子の性質の1つである,CP対称性の破れがインフレーション期の非ガウス性に与える影響を詳細に調べます.CP対称性が素粒子論のレベルで破れているかを確認することで,重要な未解決問題である宇宙の物質と反物質の非対称性を,観測により検証する方法を提案できると考えています. また,同じく重要な未解決問題である宇宙論的な量子ゆらぎの古典化メカニズムも2年目以降に取り組む予定の研究テーマです.量子ゆらぎの古典化とは,量子系が外部環境と相互作用することによって,量子的な重ね合わせ状態が失われる現象です.この現象が宇宙論的な文脈で,重力のゆらぎに対してどのように働いているかを調べることは,量子論と重力理論の統合に向けた重要なステップとなります.特に,従来の理論的な対称性に基づいたトップダウン型のアプローチとは異なり,ボトムアップによる,観測とも密接に結びついたアプローチは非常に重要となります. これらの研究は宇宙論,素粒子論,重力理論,量子情報理論などの学際的な分野であり,各分野の専門の研究者との協力が必要となるため,積極的に学会に参加し,人脈を広げて共同研究につなげることが重要です.期待される成果には宇宙論における未解決問題への観測的アプローチの提案が含まれており,挑戦的ですが重要なものとなっています.
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Causes of Carryover |
出張頻度が多かったため,購入を予定していたPCおよび周辺機器の購入を見送りその分を出張費に回したが,航空券代等で出張費を節約することができたため,結果として予算が余ることとなった. 余った分の予算は,もともと購入を予定していたPCの購入のために用いる予定である.
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