2023 Fiscal Year Research-status Report
マグノン凝縮体制御による室温動作可能な量子ビットの研究
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23KJ0989
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
根津 昇輝 横浜国立大学, 大学院理工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-04-25 – 2026-03-31
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Keywords | マグノン / マグノニクス / スピン波 / スピントロニクス / 非線形現象 / パラメトリックポンピング / 鉄単結晶 / 立方磁気異方性 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄単結晶薄膜においてパラメトリックマグノン生成条件とマグノン量子凝縮条件を明らかにし、マグノニック量子ビットの基礎となるマグノン凝縮体制御素子の設計を検討した。また、マグノンデバイスの実用化に向け、マグノン伝送時に導波路上で発生するマグノニックノイズを解明した。 パラメトリックポンピングによるマグノン生成条件の調査は、電気測定及びマイクロ磁気シミュレーションを用いて行った。鉄単結晶薄膜を矩形型マグノン導波路へ加工し、導波路上にマグノン生成及び検出用のアンテナを設置した。バイアス磁場を鉄薄膜の磁化困難軸に沿って印加し、生成アンテナから伝搬したマグノンを検出アンテナで取得した。入力電力、励起周波数、バイアス磁場の3要素を変数として、パラメトリックポンピングの閾値特性を評価した結果、等方性物質では生じないような非従来型のパラメトリックポンピングを観測した。さらに、シミュレーションの結果より、非従来型のパラメトリックポンピングは鉄単結晶薄膜の結晶磁気異方性に起因すると明らかになった。 マグノン量子凝縮条件の調査は、マイクロ磁気シミュレーションによって解析した。鉄単結晶薄膜上でパラメトリックポンピングによって生成されたマグノンが、マグノンバンドの最低エネルギー準位へと遷移し、マグノン緩和時間の増加を観測した。これは鉄単結晶薄膜におけるマグノン量子凝縮の可能性を示唆するものである。また、マグノン凝縮体制御素子の設計も同時に行い、マグノニック結晶を用いたマグノン制御を実現した。 マグノンを用いた素子の作製にあたり理解が不可欠なマグノン伝送時のノイズであるマグノニックノイズを調査した。マグノンノイズは導波路の表面状態に起因する「1/f^αノイズ」とマグノン数の揺らぎの状態を表す「ホワイトノイズ」が支配的であると明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、立方磁気異方性を有する鉄単結晶薄膜をマグノン導波路とした室温量子デバイス応用の検討を目的とするものである。本年度、鉄単結晶上においてパラメトリックポンピングによるマグノン生成条件を解明した。パラメトリックポンピングはマグノン量子凝縮の生成手法であることから、マグノン量子現象の観測につながるものである。また、シミュレーションにおいてマグノン量子凝縮が示唆された。シミュレーションによって得られた生成条件を用い、マイクロフォーカスブリルアン散乱分光法による実験的なマグノン量子凝縮の観測に着手している。一方、マグノン凝縮体制御素子設計は完成には至っていないが、マグノニック結晶を用いたマグノン制御に成功し、溝幅などの様々なパラメータを変更したシミュレーションを試行している。成果の一部は論文として掲載された。 以上の理由より、本年度の研究進捗状況はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度での実験及びシミュレーションによって得られた条件を用い、鉄単結晶におけるマグノン量子凝縮についての研究を進行する。従来、量子凝縮が報告されてきたイットリウム鉄ガーネットに比べて、鉄単結晶では熱安定性は高いが、マグノン凝縮体寿命が短いことがシミュレーションによって判明した。しかし、シミュレーションではマグノンが散乱しやすく、実際の寿命より短くなる。そこで、マイクロフォーカスブリルアン散乱分光装置を用いマグノン密度の時間変化から、実験的にマグノン量子凝縮の寿命を解析し、量子計算の実現可能性を検討する。また、室温で利用可能なマグノニック量子ビットとしての機能を有するマグノン凝縮体制御素子構造の設計を並行して行う。
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Causes of Carryover |
次年度において国際学会への参加が決まっていたため、次年度使用額が生じた。 本年度はスペインでの国際学会へ出席したが、航空代金の高騰や円安も相まって想定以上の支出であった。そのため、次年度での学会参加に対する費用を考えて次年度へ繰り越した。 次年度はPCソフトのサブスクリプションやプローブなどの消耗品、本年度に決定した国際学会及び、秋の国内学会への旅費、論文投稿料として助成金を使用する。
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